研究領域 | 脂質クオリティが解き明かす生命現象 |
研究課題/領域番号 |
18H04664
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
木原 章雄 北海道大学, 薬学研究院, 教授 (50333620)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 脂質 / 脂肪酸 / 極長鎖脂肪酸 / スフィンゴ脂質 / 代謝 |
研究実績の概要 |
極長鎖脂肪酸の産生を担う脂肪酸伸張酵素ELOVL1の遺伝子変異がヒトにおいて皮膚神経疾患を引き起こすことを明らかにした。この変異はヘテロ接合性デノボELOVL1突然変異(c.494C>T; p.S165F)であった。患者は表皮の過剰増殖と角化の亢進(魚鱗癬)を示した。また,神経症状として痙性対麻痺,中枢性眼振,視力低下などが観察された。脳白質において脱髄が観察され,痙性対麻痺および中枢性眼振の原因となっていると考えられた。一方,視神経が萎縮しており,視力低下の原因となっていた。この変異は,ELOVL1の酵素活性を失わせた。一方,ドミナントネガティブ効果は示さなかった。この変異体の細胞内局在は正常であった。患者の細胞中では炭素数(C)24の鎖長を持つセラミドとスフィンゴミエリンが減少していた。 Elovl1の遺伝子のノックアウト(KO)マウスは,皮膚バリア異常のために新生致死となる。そこで,神経系を含めた極長鎖脂肪酸の皮膚バリア形成以外の機能を解明するために皮膚でのみElovl1の発現を回復したマウス(皮膚バリアレスキューElovl1 KOマウス)を作成し,解析した。このマウスの血清を用いた各種生化学試験では異常は観察されなかった。脳におけるC24セラミドの量の低下が観察された。 不飽和結合を2つ持つ極長鎖脂肪酸(C24:2)は広範な組織のスフィンゴ脂質中に存在する。C24:2スフィンゴミエリンは飽和タイプのC24:0スフィンゴミエリンに比べ,脂質マイクロドメインにおける局在量が少なかった。皮膚バリアレスキューElovl1 KOマウスの脾臓,小腸ではC24:2セラミド量が減少しており,Elovl1がC18:2アシルCoAからC24:2アシルCoAへのアシル基の伸張を行うことが明らかになった。また,セラミド合成酵素CERS2の遺伝子KO細胞中でもC24:2セラミドが減少していたことから,ELOVL1が産生したC24:2アシルCoAを利用してCERS2がC24:2セラミドを産生することが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の交付申請書に記載した内容はすべて完了した。ELOVL1変異患者の解析に関しては交付申請書に記載していなかった病理学的な解析に成功した。また,C24:2極長鎖セラミドの解析においても,本年度の交付申請書に記載していなかったマイクロドメイン局在の減少やセラミド合成酵素CERS2の合成への関与を明らかにした。
|
今後の研究の推進方策 |
皮膚バリアレスキューElovl1 KOマウスの脳における詳細な解析(電子顕微鏡による詳細なミエリンの観察,ミエリン特異的タンパク質による免疫染色など)を行う。また,皮膚バリアレスキューElovl1 KOマウスの行動実験バッテリー,特に痙性対麻痺,中枢性眼振,視力低下に関連する項目を行う。質量分析によってセラミド以外の脂質の詳細な解析を行う。特にミエリンに多く存在するガラクトシルセラミド,スルファチド,スフィンゴミエリン,エタノールアミンプラズマロージェンの定量を行う。減少が見られた脂質の合成酵素の活性測定,発現量の解析を行い,神経症状発症の分子機構の解明を行う。
|