公募研究
本研究は、Th17細胞のマスター転写因子であるRORgtの脂質リガンドを同定し、Th17細胞分化における脂質代謝の役割を正確に理解することで、脂質・RORgtを標的とした新たな創薬ターゲット・診断ツールの構築を目的とする。平成30年度の一連の研究で、以下に示す2つの新知見を見出した。1.RORgt脂質リガンドによるILC3の減少ACC1-ERT2 creマウスおよびACC1-Vav creマウスを用いて、ILC3の形成におけるACC1の作用について解析を行なったところ、ACC1 KO群ではILC3の割合が1/3以下に減少していることが明らかとなった。また刺激後のIL-17AやIL-22の産生についても検討を行なったが、それぞれのサイトカイン産生量は1/10以下に低下していた。これらの結果からACC1はTh17細胞文化だけでなくILC3の分化も制御していることが示された。一方、ACC1-CD4 creマウスを用いて胸腺分化におけるACC1の役割について検討を行なったが、CD4やCD8 T細胞の分化に大きな影響は認められなかった。これらの結果は胸腺分化とTh17細胞、ILC3細胞形成では異なるRORgt脂質リガンドを使用している可能性を示唆している。2.RORgtの内在性リガンドとなる脂質代謝物のリピドミクス解析これまでに得られた実験結果を基に、脂質代謝酵素X欠損Th17細胞を用いたリピドミクス解析を行なったところ、オレイン酸やパルミチン酸を含むいくつかのリゾリン脂質の量が低下していることがしめされた。
2: おおむね順調に進展している
研究実績の概要1において、Th17細胞だけでなくILC3や胸腺細胞分化におけるACC1の作用について直接的な関与について解明している。また、それらの結果から胸腺分化とTh17細胞、ILC3細胞形成では異なるRORgt脂質リガンドを使用している可能性を示唆している。概要2では、脂質代謝酵素の遺伝子改変マウスを用いることでもTh17細胞分化をコントロールする酵素を見出し、リピドミクス解析の結果から標的となる脂質代謝産物を大幅に絞り込むことに成功した。実績の概要に示した内容以外においても、これらの候補となる脂質代謝物により、RORgtと脂質の結合を評価するためのレポータースクリーニングシステムを構築している。これらの成果により、細胞腫の違いによるRORgt脂質リガンドの使い分けの解明、およびRORgtの内在性リガンドとなる脂質代謝物の同定にさらに近づくことができ、予定通りの進展状況である。
(1)RORgtの内在性リガンドとなる脂質代謝物の確定:これまでに得られた実験結果を基に、RORgt標的遺伝子発現(RNA-seq解析)・RORgtのDNA結合能(ChIP-seq解析)、およびRORgt -リガンド結合能について解析を行い、Th17細胞分化におけるRORgt内在性脂質リガンドを確定させる。リガンド結合を行うための新規レポーターシステムについて確立済みである。(2)RORgt内在性脂質リガンド制御による病態モデル解析:脂質代謝酵素X、および(1)で得られるTh17細胞分化におけるRORgt内在性脂質リガンドを標的として、マウス病態モデル(EAE)・オーダーメイド高脂質食マウス(生体内Th17細胞形成・EAE病態)について解析を行う。これらの実験により、RORgt・脂質リガンドの病態における生理的作用を究明できると考える。(3)細胞種の違いによるRORgt脂質リガンドの使い分け及び標的遺伝子選択性の制御解明:Th17細胞以外のRORgt発現細胞(ILC3・LTi・胸腺T細胞)についての結果を受け、細胞形成・機能・遺伝子発現がどのように影響を受けるかさらに解析する。特に、リピドミクス解析やChIP-seq、RNA-seqをはじめとしたRORgt機能解析を行うことで、脂質リガンドの使い分けおよび標的遺伝子選択性について解明する。
すべて 2019 2018 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 備考 (2件)
J. Allergy Clin. Immunol
巻: in press ページ: in press
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