研究領域 | 脂質クオリティが解き明かす生命現象 |
研究課題/領域番号 |
18H04671
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
鈴木 健一 岐阜大学, 研究推進・社会連携機構, 教授 (50423059)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 糖脂質 / GPIアンカー型タンパク質 / スフィンゴミエリン / 細胞膜ドメイン / ラフト / 1分子観察 |
研究実績の概要 |
細胞膜上のシグナル伝達のプラットフォームとして「脂質ラフト」という概念が20年以上前に提唱されたが、その構造やシグナル伝達における役割などは、いまだに議論が続いている。細胞膜には非常に多くの種類の脂質が存在していて、ラフトとバルク相の境界の線張力が低くなっているため、大きなラフトが形成されにくい。ラフト研究が難しい理由は、ラフトが極めて小さく、寿命が短いためである。本研究では、高精度1分子観察法を用いて、1)細胞膜上のラフトの形成機構を解明し、2)細胞内へのシグナル伝達や抑制のために、ラフトがその小ささをどのように役立てているのかを解明することを目的としている。これにより脂質クオリティの多様性の生理的意義の一つを見出していく。 前年度までに、スフィンゴミエリン(SM)やDSPCなどのラフト脂質プローブ、非ラフト脂質マーカーのDOPCプローブを開発し、ラフトの形成機構を明らかにした。また、細胞膜の側方方向の相互作用(ガングリオシド糖脂質ならば糖鎖間相互作用、GPIアンカー型タンパク質ならばタンパク質間相互作用)の他に、細胞膜外層と内層の脂質(ホスファチジルセリン、PS)の飽和脂肪酸鎖間のカップリングによってラフト形成があるかどうかを検証した。内層のPSの発現量を減少させても、膜外層の糖脂質ガングリオシドのホモダイマー形成に影響を与えなかった。従って、外層と内層の脂肪酸鎖同士のカップリングが、~200ミリ秒程度の寿命を持つ、ガングリオシドのホモダイマーからなるラフトの形成の駆動力ではないことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究により、細胞膜分子の側方方向の相互作用が、~200ミリ秒の寿命を持つラフト形成の駆動力であることが示唆された。細胞膜内層のPSと外層の脂質分子の脂肪酸間のカップリングによって、外層分子の長寿命のクラスター形成が起きないことを見出した意義は大きい。また、細胞膜内層のPSの定量のために、今までは細胞を固定後、AnnexinV抗体を用いての免疫染色などをしなくてはならず、あまり正確ではなかったが、PSに特異的に結合するプローブを用いた新たな手法で細胞膜内層のPSを定量できた意義も大きいと考えている。 当初の目標を達成しており、研究計画は順調といえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、さらに生きている細胞の形質膜の外層と内層の脂質プローブの高速1分子追跡+高速超解像観察を同時に行い、ラフト脂質や非ラフト脂質の局在の変化を調べる。これによって、側方方向の相互作用でラフト形成されるのか、細胞膜外層と内層の脂質同士の表裏カップリングでもラフト形成されるのかをさらに検証することができる。 刺激後のラフトが小さいとシグナル伝達効率が上がるという仮説を検証する。そのため、様々なサイズのCD59会合体を形成させて、3色同時1分子観察によりCD59直下でのシグナル分子の活性化を観察し、シグナル伝達効率を求める。これにより、CD59会合体の大きさとシグナル伝達効率の関係を調べる。
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