研究領域 | 脂質クオリティが解き明かす生命現象 |
研究課題/領域番号 |
18H04676
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
吉澤 達也 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 准教授 (40313530)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | サーチュイン / 脂肪酸アシル化 / 運動器 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、主にSIRT7を足がかりに、運動器(骨や筋肉)における中長鎖脂肪酸アシル化修飾タンパク質の重要性と、脂肪酸アシル化修飾の環境(加齢、運動、食事)による変化と運動器を基軸とした代謝疾患との連関を研究している。平成30年度は以下の研究を実施した。 1)中長鎖脂肪酸アシル修飾タンパク質の同定とその修飾調節機構の解明:中長鎖脂肪酸由来のアシル化修飾を受けるタンパク質はごく僅かしか報告されておらず、核内の転写因子やヒストンにおいては発見すらされていない。そこで、アシル化リジン残基特異的抗体を用いた免疫沈降法により、中長鎖脂肪酸アシル化修飾を受ける新規タンパク質の取得を試みた。しかし新規タンパク質の取得には至っておらず、引き続き条件設定が必要である。 2)運動器を基軸とした代謝調節における、SIRT7の役割とその分子機構の解明 A.骨組織:骨芽細胞および骨細胞特異的Sirt7 KOマウスの耐糖能、免疫などを解析した。骨芽細胞Sirt7 KOマウスはコントロールマウスに比べ、耐糖能が良いが、インスリン感受性やグルコース応答性インスリン分泌には差が認められないことが判明した。また、腸内細菌叢に顕著な違いを発見した。 B.筋組織: Sirt7 KOマウスを用いて筋障害後の再生を解析した結果、Sirt7 KOマウスでは筋再生が低下していた。さらに、サテライト細胞特異的Sirt7 KOマウスにおいても同様の表現型が認められた。しかし、初代培養筋サテライト細胞を用いたin vitro分化実験では差が認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
抗体を用いた中長鎖脂肪酸アシル修飾タンパク質のスクリーニングが遅れており、引き続き条件設定が必要である。また、別の手法も検討する。
筋サテライト細胞特異的Sirt7 KOマウスの表現型がin vitro細胞培養系で再現できないため、メカニズムの解析が遅れている。培養中のサテライト細胞内でアシル化が起きないとKOの作用が現れないので、いろいろと培養条件を変えて検討する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
1)中長鎖脂肪酸アシル修飾タンパク質の同定とその修飾調節機構の解明:アシル化リジン残基特異的抗体を用いた免疫沈降法では引き続き条件設定を行い、中長鎖脂肪酸アシル修飾タンパク質の同定を試みる。さらに別の方法として、クリック反応を利用した脂質修飾解析法を導入する。 2)運動器を基軸とした代謝調節における、SIRT7の役割とその分子機構の解明 A.骨組織:前年度に解析した骨芽細胞および骨細胞特異的Sirt7 KOマウスの表現型の分子メカニズムを解析する。 B.筋組織: サテライト細胞特異的Sirt7 KOマウスを用いて筋再生低下の原因を探る。また、in vitroにおいてもSirt7 KOによる表現型が現れるようにサテライト細胞の培養条件を変えて検討する。さらに、その条件においてSIRT7による筋再生の分子メカニズムを解析する。 3)脂肪酸アシル化修飾の環境(加齢や生活習慣)による変化について:これまでの研究では、環境変化や老化におけるサーチュインの変容は、主に遺伝子発現の観点で語られてきた。酵素活性や細胞内局など他の変容についての研究や、アセチル化以外のアシル化修飾の変化についての研究はほとんどない。我々は、脂質の添加により核内のリジンアシル化状態が変化することを捉え始めている。そこで、環境によるSIRT7の遺伝子発現、酵素活性、細胞内局在の変容、および脂肪酸アシル化修飾の変化を各組織で捉えることを目標とする。
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