研究領域 | 脂質クオリティが解き明かす生命現象 |
研究課題/領域番号 |
18H04682
|
研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
西川 喜代孝 同志社大学, 生命医科学部, 教授 (40218128)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | インフルエンザ / ヘマグルチニン / ABCA3 / ラメラボディ / 脂質 |
研究実績の概要 |
1)MDCK-ABCA3由来iLBの単離・精製 LBを多数含有するMDCK-ABCA3(FLAG-tag)では、感染に伴いダイナミックにLBの形状・形態が変化し、HAを蓄積したiLBが形成誘導されること、このときウイルス産生が顕著に抑制されていること、を見出している。そこでLBからiLBが形成される過程での構成脂質、ならびにタンパク質の変動を明らかにするため、抗FLAG抗体を用いたLB/iLBの単離を試みた。ABCA3を指標として様々な条件で回収率を検討したところ、いずれの条件でも回収率が非常に低いこと、その一方で細胞を可溶化後同じく抗FLAG抗体を用いて免疫沈降を行った場合には効率よくABCA3が回収されること、が示された。このことから、免疫沈降によるLB/iLBの精製はその構造的な問題から困難であると判断した。そこで、密度勾配遠心法による分離、さらにフローサイトメトリー(FCM)による濃縮を試みた。まず密度勾配遠心に使用する媒質についてsucroseを用いた検討を行ったが、十分な分離能の条件を確立するには至らなかった。そこでiodixanolを媒質として様々な分離条件を検討し、ERやゴルジ体、ミトコンドリア等の主要なオルガネラとLBが効率よく分離できる条件を決定することができた。さらに、フローサイトメトリー(FCM)を用い、ABCA3発現量を指標に分画することにより、最終的に他のオルガネラをほとんど含まず、LBと非常に近い性質を有するリソソームマーカーを含む高純度LBを分画することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回、密度勾配遠心法とフローサイトメトリー(FCM)による分画を組み合わせることで、他のオルガネラをほとんど含まずリソソームマーカーを含む高純度LBを分画することができた。今後IAV感染後に誘導されるiLBの調製も同時に行うことにより両者の比較が可能になると期待できる。本研究では、LBからiLBが形成される過程での構成脂質、ならびにタンパク質の変動を明らかにすることが必須であり、そのための標品の調製系が確立できたことは、研究推進に大きく貢献する成果である。その一方で、免疫沈降法がLB/iLBの精製には不向きであることが結論できるまでに相応の時間を要したため研究推進が遅延したが、総合的に考えると概ね順調に進展していると判断できる。
|
今後の研究の推進方策 |
1)MDCK-ABCA3由来iLBの性状ならびに機能解析 今回確立したLB/iLB 画分法を用いて大量調製を行い、両者の脂質組成ならびに分子種の変動をLC-MSを用いて、タンパク質については、LC-MS ならびにMS-MSを用いて、網羅的に解析する。 2)iLB形成に関わる分子群の同定 lyso-PC acyltransferase 1 (LPCAT1)高発現細胞を作成し、感染に伴うiLBの形成と機能に対する効果を検討する。また、LPCAT1 はSatPCをLBに輸送する輸送タンパク質StarD10と直接結合し、いずれのタンパク質もLBの形成維持に必須であることが示されていることから、StarD10についても同様の検討を行う。 3)iLB形成制御におけるコレステロール代謝の関与 コレステロール負荷あるいは除去による、iLBの形成と機能に対する効果を検討する。また、通常新生HAはゴルジ体においてコレステロールと相互作用し、ラフト様の構造を保持したまま形質膜へと輸送されることが示されていることから、HAのラフト局在性の変化、並びにコレステロールの輸送制御が及ぼす効果についても同様に検討する
|