研究領域 | 脂質クオリティが解き明かす生命現象 |
研究課題/領域番号 |
18H04683
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
吉原 良浩 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, チームリーダー (20220717)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 脂質フェロモン / ゼブラフィッシュ / 嗅覚受容体 / 神経回路 / 嗅覚行動 / 性フェロモン / 視床下部 / プロスタグランジン |
研究実績の概要 |
魚類において、脂質メディエーターであるプロスタグランジンF2alpha(PGF2αlpha)が、メスの体内で排卵を誘発するホルモンとして働くだけでなく、水中に放出されたPGF2αがオスの性行動を誘起する性フェロモンとしても機能する。以下に、平成30年度に当該研究課題を遂行して得られた研究結果を記載する。 1)性フェロモンとしてのPGF2αlphaが選択的に結合するゼブラフィッシュ嗅覚受容体OR114-1とOR114-2を同定し、高親和性受容体OR114-1の遺伝子欠損フィッシュを作出した。野生型オスに比して、OR114-1欠損オスにおいては、求愛行動の減弱とともに産卵効率が著しく減少することを見出した。また、Triangular Relationship Assayにおいて、野生型メスに対しての野生型オスとOR114-1欠損オスの行動を比較したところ、野生型オスの高い優位性が観察された。以上の結果から、PGF2αlphaによるOR114-1嗅覚受容体の活性化は魚の性行動発現に重要な役割を果たすことが明らかとなった。 2)排卵前のメスの魚から分泌され、オスの精子形成を促進する性フェロモンと報告されている誘導脂質4-pregnen-17,20beta-diol-3-one sulfate(17,20-PS)が選択的に結合する嗅覚受容体および活性化する嗅球の糸球体を同定した。 以上、本研究によって、PGF2αlpha及び誘導脂質フェロモンによる魚の性行動促進作用の神経機構の一端を解明することに成功し、「脂質フェロモン」というリポクオリティの新たな概念の提唱へと至った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脂質はフェロモンとしても機能する。本研究では、フェロモンとしての脂質機能に焦点を絞り、以下の疑問の解明に挑んでいる。(A) PGF2αlpha嗅覚受容体OR114-1/ 2のマウス・オルソログ(Olfr543/544/545)の脂質リガンドと生理機能、(B) OR114-1/2のホモログ(OR112-1/113-1/113-2)の脂質リガンドと生理機能、 (C)魚の精子形成を促進する誘導脂質フェロモン(17,20-PS)の嗅覚受容体の同定と内分泌出力への神経機構、(D)傷ついた魚から分泌される警報フェロモンとしての新規誘導脂質の嗅覚受容体の同定と行動出力へと至る神経機構。本研究課題においては、モデル生物としてのゼブラフィッシュ及びマウスの利点を最大限に活用し、生化学・分子生物学・細胞生物学・遺伝学・解剖学・神経活動イメージング・行動学・神経内分泌学など多様な実験手法を統合的に組み合わせ、フェロモンとしての脂質の新たな機能の解明に向けた研究を、嗅上皮・嗅球・高次中枢レベルで行っている。 平成30年度においては「研究実績の概要」に述べたように、ゼブラフィッシュにおいてメスから分泌されてオスの魚の性行動及び精子形成を促進する2種類の性フェロモン(プロスタグランジンF2alpha、17,20-PS)が結合する嗅覚受容体から、それらが活性化する嗅球の糸球体、さらには高次嗅覚中枢を明らかにできた。このように本研究課題はおおむね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は平成30年度までの研究を大きく進展させるとともに、以下の新たな研究にも着手する。 (A)マウス嗅覚受容体Olfr543, 544, 545の内在性脂質リガンドの同定と機能の解析 (B)ゼブラフィッシュ嗅覚受容体OR112-1, 113-1, 113-2の内在性脂質リガンドの同定と機能の解析 (C)誘導脂質フェロモン17,20Pによると精子形成促進作用の神経内分泌機構の解析 (D)新規誘導脂質Daniol sulfateの嗅覚受容体の同定と忌避行動惹起の神経回路メカニズムの解析 これらの研究を遂行することにより、「フェロモンとしての脂質」という新たな概念をさらに確立させる。
|