研究領域 | 温度を基軸とした生命現象の統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
18H04688
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
酒井 寿郎 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (80323020)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ベージュ脂肪細胞 / アドレナリンシグナル / ヒストン脱メチル化酵素 / 細胞記憶 |
研究実績の概要 |
① S265D-JMJD1A点変異マウスを作製した。繁殖させたのち、実験に供している。 高脂肪食摂餌下30℃で飼育したのちに、16℃の准寒冷刺激を与えている。体重にWTとS265D変異マウスとで今のところ差は見られないが、摂餌量は16℃にすると変異マウスでWTと比べ優位に増えている。このことは、変異マウスがより脂肪を燃焼していることをうかがわせる。今後、インスリン感受性を解析するとともに、8℃などさらに寒冷の状態、また30℃におけるサーモニュートラルの条件でも解析を進める。 ② 遺伝子発現・エピゲノム解析。S265D-JMJD1A点変異マウスの脂肪組織におけるS265D-JMJD1Aマウスの脂肪組織中の熱産生関連遺伝子の発現量をRT-PCR法により解析した。さらにそれらの遺伝子上のエピゲノム(H3K9のメチル化修飾)をクロマチン免疫降法 (ChIP)とChIP Seqにより明らかにし、リン酸化持続でクロマチン変化が誘導されることを確証する。 ③ リン酸化JMJD1Aの脱リン酸化酵素複合体を特定した。より特異性が高いと考えられる調節サブユニットについて解析を進めている。その結果、この調節サブユニットをノックダウンすると、皮下白色脂肪組織から採取したstromal vascular fraction (SVF) の熱産生遺伝子の発現が数倍に上昇することが見いだされた。またSV40でライン化した前駆脂肪細胞では40数倍の上昇がみられ、熱産生も同様に亢進が観察された。 以上よりこの調節サブユニットを新規ベージュ化抑制因子とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定したことは順調に成果が上がってる。
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今後の研究の推進方策 |
① S265Dマウスから採取したSVF細胞を脂肪細胞誘導ののち、cAMPの量を変化させ、熱産生遺伝子発現の影響を解析する。S265Dマウスと野生型マウスを比べる至適温度を見つけて、代謝解析をする。 ② 新規ベージュ化抑制因子となる脱リン産化酵素調節サブユニットについては、個体レベルで確認をとるため、脂肪組織的ノックアウトマウスを作製している。すでにFloxマウスとCreドライバーマウスを入手し現在掛け合わせ、繁殖中である。このマウスを用いて、ベージュ化促進の有無、ヒストン脱メチル化に及ぼす影響について解析する。 分子メカニズム解析のために同タンパク質のRNAをノックダウンまたは遺伝子ノックアウトマウスからのSVFを採取し、リン酸化プロテオーム解析やRNA-seqによるトランスクリプトーム解析を行う。これによってリン酸化シグナル伝達のどこが亢進しているのかを解析する。またこれらの細胞でのヒストンのメチル化、DNAメチル化を熱産生遺伝子で解析する。これによってリン酸化の次のスイッチとなるエピゲノム変異が誘導されているかを解析する。同タンパク質のノックダウン細胞は細胞の形態が前駆細胞時にコントロール細胞と比べやや異なり、細胞骨格などに関与している可能性もある。細胞骨格と転写を結びつける転写因子関与するタンパク質YAP/YAZの解析を行う。
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