研究領域 | 温度を基軸とした生命現象の統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
18H04691
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
神吉 智丈 新潟大学, 医歯学系, 教授 (50398088)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ミトコンドリア / オートファジー / 脂肪細胞 / 熱産生 |
研究実績の概要 |
白色脂肪組織中の褐色脂肪“様”細胞(以下、ベージュ細胞)には、ミトコンドリアが多く存在し、熱産生器官として働く。マウスの場合、ベージュ細胞は、低温飼育により白色脂肪細胞から分化転換することで増加し、その後、高温に移行すると白色脂肪細胞へ退行する。こうした白色脂肪組織で起こるベージュ細胞の増減は、重要な環境温度への順応機構であるが、この過程で必ずダイナミックなミトコンドリア量の増減を伴う。ミトコンドリア量の増減は、ミトコンドリア生合成と分解のバランスで成り立つが、本研究では、細胞内の唯一のミトコンドリア分解機構であるミトコンドリアオートファジー(マイトファジー)に焦点を当て、環境温度変化に応答して誘導されるマイトファジー(温度応答性マイトファジー)の制御機構や生理的意義をマウスモデルおよび培養細胞系を用いて解明することを目的とする。 2018年度の研究では、まず、培養細胞を用いた研究を実施した。マイトファジー観察用のマウスから白色脂肪細胞前駆細胞を単離し、種々の分化誘導剤とPPARγアゴニストであるrosiglitazoneを投与することでベージュ細胞への分化を誘導する。この分化過程でrosiglitazoneを除去するとマイトファジーが強く誘導されることが明らかとなった。この時に誘導されるマイトファジーは、フォルスコリン(cAMPを上昇)により抑制され、PKAの阻害剤では影響を受けなかった。このことから、PKAの下流においてマイトファジーが抑制されていると考えられた。現在作成中のマイトファジーに影響を与えると考えられているマウス、FIP200C末欠損マウスについても、作製が完了し、今後は温度応答性に誘導されるマイトファジーに影響を与えるかどうかについて検証する準備が整った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究では、培養細胞レベルでの解析が進んだこと、予定していたマイトファジー不能マウスが完成し、動物個体レベルでの実験を進める準備も進んだことから、研究はおおむね順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
脂肪組織でおこるミトコンドリアの増減が細胞の熱産生とその結果である細胞の温度に影響を与えるかどうかを細胞の温度を測定することで解明する。具体的には、白色脂肪細胞前駆細胞からrosiglitazone投与により分化したベージュ細胞および、その後のrosiglitazone除去後により退行した細胞に、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いて、蛍光温度センサーgTEMP(Nakano M. et al. PLOS One 2017)を発現させる。それぞれの細胞の温度をgTEMPの蛍光強度比を用いて測定し、想定通りにベージュ細胞が最も高温であるかどうかを観察する。蛍光顕微鏡観察の条件を均一にするため、同じプレートに分化後、退行後の細胞を混在して培養し、同一視野で2種類の細胞の蛍光強度比を測定するなどの工夫も行う。 マイトファジーが阻害され、ベージュ細胞から白色脂肪細胞に退行するときのミトコンドリア分解が抑制された場合、細胞温度に影響が生じるかを検討する。rosiglitazone除去により白色脂肪細胞へ退行させる時に、①クロロキンなどによるオートファジー阻害、②マイトファジー因子と報告されている因子をshRNAで発現抑制する、などでミトコンドリア分解を抑制し、gTEMPで細胞温度に影響が出るかどうかを観察する。 さらに、マウス鼠径部の白色脂肪組織にAAVを用いてgTEMPを発現させる。このマウスの低温飼育後のベージュ細胞および、高温移行後にベージュ細胞から退行した白色脂肪細胞のgTEMPの蛍光強度比を測定し、それぞれの細胞温度を調べる。また、マイトファジー抑制マウスでも同様の測定を行い、マイトファジーの抑制が臓器レベルでも温度に影響するかどうかを観察する。
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