研究領域 | 温度を基軸とした生命現象の統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
18H04697
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
藤原 祐一郎 香川大学, 医学部, 教授 (20532980)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | イオンチャネル |
研究実績の概要 |
本研究は、体温付近の環境で高い温度依存性を呈し、白血球の温度センサーとして知られる電位依存性H+チャネル(Hv)をターゲットとし、電位依存性チャネルタンパク質の温度センシング機構について明らかにすることを目的とする。Hvチャネルに対して、生理学、生物物理学、蛋白質分析化学、蛋白質計算科学の分野横断的な手法を先鋭的に用いて、タンパク質が、物理的な温度を受容し細胞の生物学的機能に変換出力していくメカニズムを解明することを目的とする。本年度は、Hvチャネルの温度特性を解析することに取り組んだ。その高い温度依存性を生み出す分子機構を明らかにし、電位依存性チャネルスーパーファミリーに普遍的に通用する温度センシング機構を解明することを目指し、タンパク質の構造-機能-物性を「温度という共通のパラメター」を基軸として解析を行なった。計算科学を用い理論と実験の両側面からチャネルタンパク質を解析し、各パラメターの有機的なつながりを検討した。 1) 蛋白質熱力学解析:発現精製したHvチャネルのタンパク質の熱による変性を熱力学的アプローチにより解析した。温度感知機構の理論的背景に迫るため蛋白質の物性-チャネル機能の側面から検討した。 2) 構造機能相関解析:温度条件を変化させる実験系を確立し、電気生理学的に温度変化に伴い変化するチャネル活性を解析した。Hvチャネルの結晶構造を基に作成した変異体を解析し、温度依存性の責任ドメインを探った。温度感知機構の理論的背景に迫るため立体構造-チャネル機能の側面から検討した。 3) 分子動力学解析:Hvチャネルの結晶構造を用いて温度を変えたシミュレーションを行った。 4)実験により得られた温度感受性の知見をTRPチャネルへ応用する領域内共同研究を行った。 5)領域内共同研究にて本研究のノウハウを活かして新規温度受容チャネルの解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定通りの進捗に加え、領域内共同研究において、本研究のノウハウをTRPチャネルや新規イオンチャネルの解析に応用することが出来た。Hvチャネル研究を通じて得られる温度感知機構を説明するアイデアをTRPなど構造の類似した他のチャネルに応用した実験を行い、理論の普遍性を探る本研究の目的に合致しており、今後の展開が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
Hvチャネルの温度特性を解析する。その高い温度依存性を生み出す分子機構を明らかにし、電位依存性チャネルスーパーファミリーに普遍的に通用する温度センシング機構を解明することを目指し、タンパク質の構造-機能-物性を「温度という共通のパラメター」を基軸として解析を行なう。計算科学を用い理論と実験の両側面からチャネルタンパク質を解析し、各パラメターの有機的なつながりを検討する。 1) Hvチャネルの温度感知機構の電気生理学的解析と蛋白質化学的解析結果を融合させ、温度感知機構の理論構築を行う。作成した変異体にも適合するか実験的に検証を行う。 2) 分子動力学解析:Hvチャネルの結晶構造を用いて温度を変えたシミュレーションを行う。温度依存性ドメインの局所的センサー機能が膜貫通領域に伝わりチャネルの開閉を制御する機構を理解するために、膜貫通領域も付加したfull-lengthのチャネルを用いてシミュレーションを行う。 3)他の温度センシングチャネルへのアイデアの展開 Hvチャネルは最小単位の分子構成からなり、他の分子たとえば電位依存性チャネルスーパーファミリー(TRPチャネルも含まれる)の電位センサードメインと構造類似性が高いため、Hv研究で得られる知見の応用が期待される。TRPチャネルにHvチャネルから得られたアイデアで変異を導入し、温度特性を変化させることが出来るかを電気生理学的に解析する。温度依存性のほとんど無い他の電位センサー分子に変異を導入し温度感知機構をもたらすことが出来るか試みる。実験で用いたチャネルに対して、構造情報を基に温度センシング機構を考察する。適宜、分子動力学計算を進め温度感知機構の統一的な理解を目指す。領域内共同研究を通じて、積極的に他のイオンチャネルへの理論応用を試みる。
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