褐色脂肪組織による熱産生は、全身性代謝維持の面から重要な生体機能の一つである。褐色脂肪細胞では、UCP1を介した熱産生機構が詳細に解析されている。しかし、ミトコンドリアでの熱産生は脱共役を伴うため、ミトコンドリア品質が一時的に悪化する。その恒常性維持のために、何らかのミトコンドリア変化をセンシングし、下流へシグナルを伝えることによってミトコンドリア品質が管理されていると想定された。本研究では、褐色脂肪細胞において、どのようにミトコンドリアが品質管理され熱産生システムの恒常性が維持されているのかについて研究を実施し、次の点を発見した。1)褐色脂肪細胞では、分化依存的にミトコンドリアが著しく発達し、同時に小胞体-ミトコンドリア膜接触が有意に増加する。2)褐色脂肪細胞分化、アドレナリン受容体刺激、細胞温度刺激依存的に、小胞体ストレス受容体の一つPERKがリン酸化される。3)そのリン酸化は、通常の小胞体ストレス応答とは異なる特異的リン酸化である。4)PERK欠損によりクリステ構造が破綻し、ミトコンドリア膜電位が維持できなくなる。5)PERK欠損細胞は、アドレナリン受容体刺激による熱産生が有意に低下する。6)PERK欠損マウスは、低温暴露刺激に対して体温維持ができなくなる。7)ミトコンドリアからの熱産生依存的なPERKリン酸化は、小胞体-ミトコンドリア膜接触場で観察され、そのリン酸化が褐色脂肪細胞の熱産生に必須であることが示された。以上の知見から、褐色脂肪細胞特有のオルガネラ構造(ミトコンドリアと小胞体の緊密な接触場)が、ミトコンドリアからの熱産生を受容する“場”となり、小胞体側に存在するPERKがセカンドメッセンジャーを感知し、下流へシグナルを伝達していることを明らかにした(Life Sci Alliance 2020)。
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