研究領域 | 温度を基軸とした生命現象の統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
18H04700
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研究機関 | 富山県立大学 |
研究代表者 |
村上 達也 富山県立大学, 工学部, 教授 (90410737)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 表面化学 / ナノバイオサイエンス / ドラッグデリバリーシステム / 金ナノ粒子 / リポタンパク質 |
研究実績の概要 |
本研究では、光線温熱材料である金ナノロッドと生体内でコレステロール輸送を担う高密度リポタンパク質を組み合わせて、細胞局所を安全に加熱することができるナノヒーターを作製する。細胞膜加熱型ナノヒーター(pm-AuNR)を用いると、細胞膜を壊すことなく、熱感受性イオンチャネルTRPV1を光活性化できることをすでに見出している。本年度は、高密度リポタンパク質のコレステロール輸送能に着目して、このメカニズム解明に取り組んだ。 本研究を実施するにあたり、pm-AuNRがgiant unilamellar vesicle (GUVs)懸濁液中で分散することが前提となる。GUVsは塩存在下では不安定化するため、等張のスクロース溶液が溶媒として選択される。pm-AuNRは等張スクロース溶液中で高いコロイド安定性を示した。pm-AuNRの構成分子であるカチオン性脂質がその安定性に重要な役割を果たすことが明らかになった(ChemistrySelect, 2018)。 コレステロールを搭載させたpm-AuNRを固体秩序(So)/液体無秩序(Ld)混合相GUVsと混合すると、相に変化はなかった。同様の条件下で、シクロデキストリンを用いて系にコレステロールを添加すると液体秩序(Lo)相が出現した。次に近赤外レーザーを照射して、AuNRの光線温熱効果を利用するために、近赤外レーザーを照射した。するとLo相の出現が検出された。この出現頻度は、レーザーパワー強度に比例した。以上の結果から、pm-AuNRによるLo/LdからSo/Ldへの相転移は、pm-AuNRに含まれるHDLによる、脂質膜からのコレステロール引き抜きが原因であることが強く示唆された。またこの結果は、コレステロールキャリアとして頻用されるシクロデキストリンと異なり、pm-AuNRを用いれば、相転移を光制御できる可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究課題を担当する博士課程学生が、京都大学iPS研究所で研究する機会を得て(3ヶ月)、彼の希望を優先したこともあり、昨年度は本研究課題に十分な労力を割くことができなかった。また年度途中で波長可変近赤外パルスレーザーが故障し、予算の都合上、代替品を手配することができなかったことも進捗に影響した。本年度は機能を削った単波長連続波近赤外レーザーを代替品として購入する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
ラフト局在性ガングリオシドを結合させたSo/Ld混合相GUVsを用いて、ガングリオシドの局在もSo相からLo相に変化することを確認する。 A01-1班の内田らによってTRPV1再構成GUVsが作製され次第、pm-AuNRを作用させ、Lo/Ld → So/Ld相転移とTRPV1活性化度の関係を明らかにする。具体的には、Lo/Ld → So/Ld相転移を引き起こすpm-AuNRと、それを引き起こさない(その逆反応を引き起こす)コレステロール搭載pm-AuNRを用いて、TRPV1活性化度を比較する。蛍光ラベルpm-AuNRとTRPV1を用いて、両者のGUV膜状での局在を明らかにする。 A01-4班の岡部と共同で、細胞質局在型金ナノロッド(cy-AuNR)による細胞質局所加熱時の温度を計測するとともに、cy-AuNRの細胞機能制御ツールとしての可能性を探索する。
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