胚発生のプロセスは胚体外の温度環境に強く依存している。発生過程における細胞の増殖や分化を制御する様々なシグナル分子の中で、特にNotch受容体を介したシグナル (Notchシグナル) は細胞の未分化性の維持や運命決定に重要な役割を果たす。そこで本研究課題では、脊椎動物の中でも羊膜類(哺乳類、爬虫類、鳥類)の胚発生過程におけるNotchシグナルの温度依存性と補償性を制御する分子機構を解明し、その進化学的意義を明らかにすることを目標とした。これまでに、卵殻内で発生が進行する羊膜類(爬虫類、鳥類)では、外気温を37度から30度に下げた場合、Notchシグナル活性の有意な上昇が起こるこことを発見している。この結果を踏まえて、羊膜類各系統におけるNotchシグナルの温度依存性と補償性の分子実態を解明するために、リガンド依存的な受容体活性化経路あるいはエンドサイトーシス経路の選択的機能阻害によるNotchシグナル活性比較を行った。その結果、特に鳥類の神経前駆細胞におけるおいて、Notch リガンドの膜表面への提示とエンドサイトーシスによる取り込みが温度依存的な活性制御に重要な役割を果たしていることを明らかにした。さらに、鳥類の温度依存的なNotch活性の制御に細胞膜の構成成分であるリン脂質が関与している事実を発見した。また羊膜類各系統の胚発生過程においてNotch シグナル活性を人為的に操作することにより、シグナル活性の温度依存性と補償機構の生理的意義を検証し、温度依存的、非依存的なNotchシグナル活性が種に固有の分子メカニズムによって制御されていることを発見した。これらの研究成果から、羊膜類の胚における温度依存的な神経分化機構の分子メカニズムが明らかとなり、胚の発生と進化における温度の影響に関する新たな知見を得ることができた。本研究成果に関する論文を現在準備中である。
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