公募研究
モデル植物として広く利用されているシロイヌナズナは、世界中の様々な地域に生息し、その数は1000以上に上る。これらは様々な環境条件に適応した結果、同じ種でありながらストレス耐性に大きな違いがあることが明らかとなってきた。先行研究にて、シロイヌナズナ98 accessionの「短期間の極端な高温ストレス」と「長期間続く高温ストレス」に対する耐性を評価したところ、それぞれの高温耐性に大きな多様性を見出した。興味深いことに、短期高温耐性を示すaccessionは必ずしも長期高温耐性を示さず、それぞれの耐性は独立したメカニズムに因ることが示唆された。今年度は特に長期高温耐性に関する研究において進捗があった。先行研究において、シロイヌナズナaccession間で耐性を示したCol-0と感受性を示したMs-0のF2個体を用いたマッピングの結果、第二染色体に耐性に寄与する原因遺伝子が座乗すること、さらに他の遺伝子座の影響を排他するため、Ms-0にCol-0を5回掛け戻したNear Isogenic Lines (NILs)を作成し、原因遺伝子座を33 kbp内、11遺伝子に絞り込むことに成功した。Ms-0のゲノムシークエンスを解読した結果、Col-0とMs-0間にはアミノ酸置換を誘導する非同義置換が4遺伝子に見つかった。そこで昨年度はこれら4つの候補遺伝子をCol-0よりクローニングし、Ms-0へ導入することで相補試験を実施した。その結果、1つの遺伝子が耐性を相補する、すなわちCol-0とMs-0間における高温耐性の違いを説明する原因遺伝子、CoHT(Continuous Heat Tolerance)遺伝子の特定に至った。
2: おおむね順調に進展している
本研究で最も難しいポイントであった、原因遺伝子の同定に成功した。これまでに植物の高温耐性の多様性に寄与する遺伝子を明らかにした報告はなく、この研究成果は非常にインパクトのある研究になると予想される。多様性に関わる原因遺伝子座の同定が困難な理由は、多くの場合、その表現型が複数の遺伝子座に因るからであり、本研究でも寄与する遺伝子座の1つだけを絞り込んだNILを数年がかりで作出した結果、原因遺伝子の同定に至った。よって、「おおむね順調に進展している」とした。
本年度は、CoHT遺伝子がどのようにして高温耐性の多様性に寄与するのか、そのメカニズムを明らかにするために以下の実験を実施する。1)RNAseqによる遺伝子発現解析およびCoHT遺伝子との関連が示唆される遺伝子群の変異株を用いた解析長期高温応答システムについては、原因遺伝子座のみを感受性のMs-0型とし、98%(理論値)の遺伝子型を耐性のCol-0型に置換したNIL(表現型は長期高温感受性)の作成が完了している。原因遺伝子座の機能を調べるため、このNILとCol-0を用いてRNAseqを行い、網羅的な遺伝子発現の違いを明らかにする。また、CoHT遺伝子との関連がこれまでの報告により示唆されている遺伝子群について、特にそれらの遺伝子変異株を用いて、その高温耐性への影響を調べることで、CoHT遺伝子がどのように高温耐性に関与するかを明らかにする。3)CoHT遺伝子の多様性・進化・地学的相関関係に関する解析特定したCoHT遺伝子について、シロイヌナズナaccession間における遺伝子型の多様性を明らかにし、高温耐性との相関を明らかにする。また、シロイヌナズナと近縁のミヤマハタザオのゲノムと比較することで、原因遺伝子座の進化遺伝学的解析を行う。さらに、シロイヌナズナaccessionの採取地データを用いることで、高温耐性と地学的パラメーターとの相関関係を明らかにする。
すべて 2019 2018 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Nature Communications
巻: 10 ページ: 1-13
10.1038/s41467-019-08479-5
Communications Biology
巻: 2 ページ: 1-13
10.1038/s42003-019-0281-1
http://dbs.nodai.ac.jp/html/222_ja.html