研究実績の概要 |
近年、次世代シーケンサーを応用したHi-C 法による染色体の立体構造の解析が急速に進んでいる。本研究は、申請者がこれまでに開発したHi-C データ解釈のためのウェブサーバChromContactの拡充を図り、幅広いユーザーがHi-C データを利活用するための基盤技術の創出を目指す。また、それを応用した研究として、遠位エンハンサーの同定、および生物種間で見られる染色体転座と空間配置の関係についての解析を進める。とくに、発症メカニズムについてのモデル化が十分でないGWAS 解析の結果について、遠位エンハンサーの変異が関与している可能性を調べることで、その発症メカニズムの解釈を試みる。このように、次世代シーケンサーのデータ解析、特に近年発展が目覚ましいHi-C データの解析を中心にしたバイオインフォマティクス研究により、本領域の推進に貢献する。 本年度は、昨年度同定したERRFI1の遠位エンハンサーについて、染色体の空間構造やエピゲノムデータの網羅的解析から、その疾患への関与についての解釈を可能とするモデルを構築した。このモデルは、エンハンサー中に存在する多型ごとのERRFI1の発現強度などからも支持された。これらの成果を論文として発表した(Kubota and Suyama, BMC Medical Genomics 2020)。 さらに、がんにおける非コード領域の変異についての解析も行った。特に変異のホットスポットに着目することで、ランダムに生じる変異との区別を図った。その結果、149個の非コードドライバー変異候補が見つかった。これらについて、がんとの関連を染色体の構造を元に考察した。たとえば、その中の1つはNFATC4遺伝子のプロモーターと空間的に相互作用するエンハンサー上に位置することが示された。この結果について、現在論文投稿中である。
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