公募研究
電場は物質としての実体はないが、生体における重要な情報伝達因子の一つである。神経や筋の活動電位、ミトコンドリア膜におけるエネルギー産生の他、膜電場は多様な細胞機能に関与することが示唆されているが、その全貌は未だ明らかとなってはいない。膜電位が果たす役割をより詳細に理解するためには、従来の電気生理的手法に加え膜電位動態の時空間可視化技術が重要である。これまでに例えば、蛍光タンパク質と膜電位依存的に構造変化を引き起こす電位センサードメインとを融合させることにより、膜電位変化を光学信号として可視化する分子ツールが作成されてきたが、その適用範囲や感度、時間特性などはまだ限られており、さらなる発展が必要な状況にある。多様な生物種の電位依存性フォスファターゼオルソログN末配列の解析の過程で、小胞体移行能を持つ約150アミノ酸配列を見出し、これを用いて、膜電位プローブを細胞内の小胞体膜へと局在させることに成功した。また、蛍光蛋白質が金属・溶液界面において電場依存的に千倍以上のコントラスト比で蛍光強度の変調を引き起こすことを見出し、膜電位可視化をはじめとする細胞計測への応用の可能性があると考え、その現象の記載と原理解明を目指した実験系の構築を行った。予備実験の結果、1)クロムに比べて金や白金において顕著な変調が見られること、2)流れをもった媒質のもとでも可逆的な蛍光変調が観察されることから、蛍光蛋白質の吸着、脱吸着では説明できないことなどが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
蛍光蛋白質が金属・溶液界面において引き起こす電場依存な変調現象を定量的に評価する実験装置や計測系をおおむね確立できたため。
予備的な実験により、電圧変化において流れる微小電流と蛍光変化との間に数十ミリ秒の時間遅れがあることが示唆されている。電気化学アナライザと光電子増倍管モジュールを用い、電流、電圧、蛍光を同時計測するシステムを構築し、変調と電荷移動の相関をより詳しく解析する。また、金属種によって変調効果に差異がみられたことから、時間相関単一光子計数法による蛍光寿命の電圧依存性と金属種、溶媒pHによる蛋白質の電荷状態変化の効果等を調べる事により、包括的に変調原理を検討していく。細胞計測の応用への足掛かりとしては、電場依存的相互作用を約10 nmの脂質膜を介した膜電位で駆動し、その可視化原理とする事に取り組む。金属基板上に細胞成長に親和性のあるポリマーを薄くキャストし、細胞膜直下に蛍光蛋白質をアンカーした細胞を培養し、パッチクランプ法により電位依存性を解析する。膜にアンカーしただけでは応答が出ない場合には、電位センサードメインの能動的な構造変化を利用し、金属膜との距離を積極的に変化させてその応答が検出できるか検討する。膜電場との明らかな相関が確認されたら、初代培養心筋細胞のような膜電位の自発的振動を示す細胞を用いたイメージング実験に取り組む。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件)
The Journal of General Physiology
巻: 150 ページ: 1163~1177
10.1085/jgp.201812035