本研究では、蛍光ラベルした受容体と蛍光リガンドの結合によって起こるFRETが、サンプル中のリガンドによって低下する事を利用する新しい測定法(競合FRET法)を使って、細胞外メッセンジャー測定センサーを開発する。さらにそれを発展させ、分子内にリガンド部とその結合サイトをもつtethered型センサー技術の確立を試みた。これらの方法を使って唾液腺におけるCa2+オシレーションの組織レベル同調のしくみや、歯原性上皮細胞(SF2細胞)と歯髄幹細胞(DPSC)の共培養によって発生する自発的Ca2+オシレーションのしくみを明らかにする。 競合FRET法を新しいセンサー開発に利用できる事を確認するために、蛍光ラベルしたアビジンと蛍光ビオチンの結合や、蛍光ラベルした抗体と蛍光抗原の結合によって起こるFRETが、競合分子によって減弱することを確認した。またCFPを連結したIP3受容体のリガンド結合部(CFP-LBD)への蛍光リガンドの結合によって、従来の1分子型センサー(LIBRA)の約10倍の蛍光変化率が起こることに加えて、FRETドナーとしてCFPを円順列変異体やチオール反応性蛍光物質を使用することで、蛍光変化率をさらに大きく改善できることが明らかになった。 これらの技術をtethered型センサーの開発に応用するために、ビオチン・アデノホスチン誘導体(B-ADA)を合成し蛍光アビジンを使ったIP3の測定に成功した。そこでCFP-LBDにアビジン・コンカタマーを連結させたリガンド・受容体一体型IP3センサーを作成してB-ADAによる蛍光変化を確認した。しかし蛍光変化率が期待の20%程度であったため、AngIIやEGFセンサーへの応用は難しいと判断し、SpyCatcher/SpyTag(SpyC/SpyT)技術を利用して2つの分子を結合させた改良型tethered型IP3センサーを作成した。この結果からSpyC/SpyT技術がtethered型センサーの作成に利用可能であるが、さらなる蛍光変化率の改善が必要と考えられた。
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