研究領域 | 共鳴誘導で革新するバイオイメージング |
研究課題/領域番号 |
18H04751
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
毛利 一成 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 研究員 (00567513)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 3次元1分子計測 / MAPKシグナル伝達 / 絶対濃度定量 / 拡散係数計測 |
研究実績の概要 |
MAPKシグナル伝達において、細胞外の刺激がリン酸化によりERKに伝わりERKそのものが核膜孔を通過することで遺伝子発現誘導を開始する。このプロセスの制御は運命決定に影響すると考えられる。実際に我々は運命決定における確率性の存在は、ERK核移行におけるアナログ・デジタル変換機構に由来する可能性を見出している。これまでに共焦点顕微鏡の画像解析技術を新規開発することで、ERKの核膜孔通過はシグナル伝達の律速段階であることが明らかとなっている。本年度は以下の研究を行った。①共焦点顕微鏡による高速スキャンと画像取得条件の最適化や解析法開発を行い、細胞内でERKの絶対濃度と核移行速度の定量化をすることで、ERK核移行の濃度依存性を検証した。②細胞内小器官や蛍光タンパク質が通過に及ぼす種々の影響を排するため、蛍光色素標識したERKの精製を行い、細胞膜可溶化による核の抽出を行うことでin vitroでERK核移行を計測可能な実験系の構築を行った。③ERK変異体の構築を行い、細胞刺激前後での変異体ERKの局在変化を調べることで、細胞質・核質のERKの濃度比や移行速度が著しく変化する変異部位を明らかにした。これと並行して、今後はin vitroでの1分子計測系を構築することで、協同性の帰結として予想される、個別の核膜孔にERK通過の履歴が生じる可能性などを検証し、変異体を用いた移行のメカニズム解明にも着手する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究においては細胞内分子濃度や拡散係数の定量が不可欠である。これまでそれらの計測には高価な装置が必要なFCSや、汎用の共焦点顕微鏡画像を用いたRICS(Raster image correlation spectroscopy)が用いられてきた。しかし、RICSでは細胞内の定量化が困難であったため我々は、FCSおよびRICSの長所を活かし、共焦点顕微鏡による高速スキャンと画像取得条件の最適化や解析法開発で、濃度や拡散係数の正確な推定に成功した。これを用いて細胞内ERKの絶対濃度推定と、FRAPによるERK核移行速度の定量を行うことで、濃度依存的な移行速度の関係を明らかにしている。さらに、細胞内の種々反応の影響やERKに融合した蛍光タンパク質の影響を排すため、精製したERKに蛍光色素の標識を行った。この精製ERKを、細胞膜を可溶化した核に加え、濃度依存的な通過速度の定量のin vitro実験系を構築している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに細胞内でのERK核移行の協同性が示唆されてきたが、細胞質でERKは種々タンパク質と相互作用する。さらに細胞内では蛍光タンパク質の存在でERK核移行の通過速度が影響を受けることがわかったため、ERKそのものの通過キネティクスを明らかにすべく、精製したERKに直接蛍光標識を行い、in vitroでの実験を行う。この精製ERKを、細胞膜を可溶化した核のみの細胞に様々な濃度で滴下することで、核膜孔がERKを通過させる酵素反応速度を定量的に明らかにする。複数のERK変異体の解析により、リン酸化刺激前からERKの核移行が抑制される部位や、リン酸化後に細胞質から核質への流入を抑制する部位が明らかとなっており、これらを用いて通過の分子メカニズムを明らかにする。これまで細胞内で行ってきた1分子計測法では通過と解離イベントの区別ができなかったため、2焦点光学系で3次元1分子計測法の開発を続ける。これによりこれまで分離困難であった核膜孔が単一ERK分子を通過させる1分子酵素反応素過程の可視化を目指す。これと並行して、in vitroでの1分子計測系を構築することで、協同性の帰結として予想される、個別の核膜孔にERK通過の履歴が生じる可能性を検証する。
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