研究領域 | 生物の3D形態を構築するロジック |
研究課題/領域番号 |
18H04768
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
立川 正志 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 研究員 (30556882)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 生物物理 / オルガネラ / 機械学習 |
研究実績の概要 |
ミトコンドリアの持つ複雑な形態を生み出すメカニズムについて、力学モデルを用いて研究を進めた。結果、これまでに解明されていない二つの問題、チューブ形態を生み出すメカニズムは何か、と、ミトコンドリア・クリステを生み出すメカニズムは何か、はある仮説の元で一つの同じ機構で説明できることを見出した。その仮説においてはクリステを形成する力の存在を仮定し、この力がクリステを生成・伸長させるとともに、クリステ膜が内膜へ張力を伝えることにより、ミトコンドリア概形に曲率が生じ、チューブ形態が生み出される。さらに、この機構に基づいてオイラー・ラクランジュ方程式を解くことにより、エネルギー的に安定なミトコンドリア形態を求めたところ、ミトコンドリアチューブ形態には所々に"くびれ"が生じることが分かった。ミトコンドリアは細胞の中で頻繁に分裂・融合を繰り返しているが、その分裂のきっかけを生み出す分子メカニズムはまだ完全には理解されていないが、このくびれは、分子的なきっかけを必要とせず、ミトコンドリア膜のエネルギー的な安定化が自発的に分裂を促進させることを示唆している。 さらに、この仮説の妥当性を調べるために、既知のミトコンドリア局在分子の分布・運動がクリステへ及ぼす効果を検証した。結果、ミトコンドリア局在分子のうち、特に呼吸鎖複合体やATP合成酵素などの能動的な膜輸送とカップルした非平衡ゆらぎが、この仮説において仮定したクリステ形成力を生み出しうることを示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ミトコンドリア概形のチューブ形態の力学モデルの研究が当初考えていたより進んだ。さらにこのモデルがクリステ形成についても説明能力があることが分かり、ミトコンドリア形態を総合的に説明するところまで行きついたことは、思っていた以上の成果である。また、この力学モデルにおいて導入した仮説であるクリステ形成力の、分子的な根拠についても説明できるところまできており、このモデル研究の方向での進展はたいへん満足のいく結果である。 一方、力学モデルの研究が予想外の進展を見せたため、その進度に研究資源をさいた結果、もう一つの目標である、ミトコンドリア形態の機械学習による解析には遅れが生じた。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度に進展した力学モデルを用いたミトコンドリア形態の仮説を精緻化するとともに、ミトコンドリア形態の機械学習による解析も進める。統計的な形を解析する手法として近年発展している、パーシステント・ホモロジー解析を用いる。これは空間的に広がりを持ったデータの集合に対し、データが持つ様々な空間スケールでのトポロジー構造を抽出し、そのエッセンスを2次元グラフへと射影する手法である。この方法は、基礎として膜のつながりが作るトポロジー構造があり、さらにそれが3次元的に高次配置されて形態を作り出しているクリステ構造を解析するのに、最適の手法である。パーシステント・ホモロジー解析より得られるデータは、形態の統計的特徴を保存しながら元の形態データにくらべ大幅に圧縮されており、このデータを機械学習にかけることにより、効率的にクリステ形態の統計分類を行う。
|