研究領域 | 生物の3D形態を構築するロジック |
研究課題/領域番号 |
18H04771
|
研究機関 | 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪母子医療センター(研究所) |
研究代表者 |
松尾 勲 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪母子医療センター(研究所), 病因病態部門, 部長 (10264285)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | マウス着床胚 / 物理的環境 / 三次元形態 / 細胞外マトリックス / 子宮内膜 / 基底膜 |
研究実績の概要 |
マウス胚は、子宮内膜に着床し、子宮組織に囲まれた閉鎖空間内で3D形態形成を進行させる。現在までに、子宮から胚への力が胚発生に必要であることを示してきたが、胚にかかる子宮側からの力が、どのように緩衝・調節され、胚の3D形態構築に機能しているのか全く不明である。本研究課題では、胚を取り囲んでいるライヘルト膜によって作られる空間構造が、子宮内の圧力から胚を保護し、その圧力を調節するという役割を担っているのではないかという仮説のもと研究をすすめ、本年度は、以下の知見を得た。 ① 着床直後のマウス胚がどのようにライヘルト膜におおわれていくのか明らかにするため、ライヘルト膜を認識する抗体を用いて免疫組織学的な解析を行った。その結果、ライヘルト膜は、ラミニンによって基底膜の沈着が開始し、その後コラーゲンが沈着していることが分かった。またジストログリカンの分布は最初のラミニン沈着箇所と合致していることが分かった。その一方、ライヘルト膜の主要構成分であるラミニンを欠損させた胚では、コラーゲンの沈着も観察されず、透過電子顕微鏡像からも基底膜構造自体が失われていることが分かった。 ② 着床直後の野生型胚を対象として、子宮内部の微細構造の解析が可能な高解像度のマイクロCTによる画像解析を行った。撮影したCT画像から3D立体再構築を行ったところ、着床直後には、ライヘルト膜によって胚と子宮側脱落膜組織の間に空間構造が存在することが明らかになった。更に、ライヘルト膜が形成されないラミニン欠損マウス胚をマイクロCTで解析すると、野生型胚でみられる空間構造が形成されていなかった。 以上の結果は、着床直後の胚では、子宮側脱落膜組織と胚との間にライヘルト膜によって空間構造が形成されることで、胚が子宮側からの圧力で押しつぶされずに正常に発生進行できる可能性を示唆している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ラミニン欠損胚を用いた空間構造について予備的な解析を終えることができ、現在サンプル数を増やした解析を進めている。また、ジストログリカン分子の糖鎖修飾に関わる分子であるフクチン遺伝子を欠失した変異マウスについても導入を進め、マウスコロニーを増やすことに成功した。既に、フクチン遺伝子変異体のライヘルト膜形成などについて詳細な解析を開始できる段階に入っている。
|
今後の研究の推進方策 |
今後以下の計画を進めることで目的を達成したい。 ①解析するサンプル数を増やすことで得られた結果を確認する。②フクチン遺伝子欠損マウスについても解析を進めることで、ライヘルト膜によって形成される空間構造の機能解析を進める。③胚本体、ライヘルト膜、子宮側組織の弾性率(ヤング率)を原子間力顕微鏡等により計測・計算することで数値化する。特に、ライヘルト膜形成不全を示すマウス変異胚の弾性率と比較解析することで、胚の3D形態形成と弾性率との関係について検討する。④ライヘルト膜を持つ胚とライヘルト膜を除去した胚を子宮外でゲル包埋培養することで、ライヘルト膜によってつくられる空間構造が、胚の3D形態形成に果たす機能を明らかにする。
|