マウス胚は、子宮内膜に着床し、子宮組織に囲まれた閉鎖空間内で三次元(3D)形態形成を進行させる。現在までに、子宮から胚への力が胚発生に必要であることを示してきたが、胚にかかる子宮側からの力が、どのように緩衝・調節され、胚の3D形態構築に機能しているのか全く不明である。本研究課題では、胚を取り囲んでいるライヘルト膜によって作られる空間構造が、子宮内の圧力から胚を保護し、その圧力を緩衝するという役割を担っているのではないかという仮説のもと研究をすすめ、本年度は、以下の知見を得た。 ①ライヘルト膜は存在しているが一部に穴があいた膜を持つフクチン遺伝子欠損胚を用いて、ライヘルト膜の機能を形態的に解析した。その結果、フクチン欠損胚では、ライヘルト膜を持たないラミニン遺伝子欠損胚と同様に、着床後2日目には胚が変形し、卵円筒形形成ができなかった。 ②次に、子宮内部の微細構造が非破壊的に可能な高解像度のX線マイクロCTによる画像解析を行った。その結果、フクチン欠損胚では、胚と子宮側との間にライヘルト膜によって形成される空間が、ライヘルト膜を持っているにもかかわらず、失われていることが分かった。 ③更に、原子間力顕微鏡のカンチレバーを用いて、ライヘルト膜で覆われた正常な胚、ライヘルト膜を完全に除去した胚、ライヘルト膜の一部に穴を開けた胚に対して押し込み実験を行った。その結果、正常胚は、ライヘルト膜によって押し込みが緩衝され、胚は変形しなかったが、ライヘルト膜の無い胚や一部穴が開いている胚では、押し込みによって胚が変形することが分かった。 以上から、球状の受精卵から卵円筒形状へと3D形態を変化させるためにライヘルト膜によって形成される緩衝空間がクッション機能を果たしていることが重要であることが分かった。
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