研究領域 | 植物の成長可塑性を支える環境認識と記憶の自律分散型統御システム |
研究課題/領域番号 |
18H04772
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
千葉 由佳子 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (70509546)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | ポリA分解酵素 / RNA結合タンパク質 / ストレス応答 / シロイヌナズナ |
研究実績の概要 |
植物はある一定の環境ストレスに晒されるとそのストレスに耐性を示すようになる。そこには多くのストレス応答性遺伝子の発現誘導が関わっている。しかし,ストレス応答性遺伝子の発現は耐性の獲得とのトレードオフとして、成長の抑制を引き起こすことがある。ゆえに植物にとって好ましい環境条件に戻ったときに,ストレス応答性遺伝子のmRNA量を急激に減少させる必要があり,そこにはmRNA分解の活性化が関わっていると考えられている。しかし,その機能分子は明らかとなっていない。本研究の目的は,mRNA分解の律速段階を担うシロイヌナズナのポリA分解酵素AtCCR4のストレス応答における役割を明らかにすることである。 本年度は,atccr4変異株を用いた各種ストレス応答の表現型観察により,AtCCR4がストレス応答に関わることを示すことができた。一方で,AtCCR4は単独のタンパク質として存在するのではなく,AtNOT1タンパク質を足場とした巨大複合体を形成することを示した。その中には,AtCCR4の標的遺伝子の認識に関わると考えられるいくつかのRNA結合タンパク質も含まれる。そのうちのひとつであるAPUM5は,ストレス処理とともに発現が上昇し,かつその過剰発現株はatccr4変異株とは逆のストレス応答の表現型を示す。また,蛍光タンパク質再構成法によって,AtCCR4とAPUM5が細胞質内の顆粒状構造体で相互作用することも明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年9月に北海道胆振東部地震が発生し,長期にわたる停電となり冷凍保存の試薬類,植物体サンプルにダメージを受けた。また,人工気象器が停止したこともあり形質転換体の生育にも問題が生じたため,繰越申請により5か月の延長が認められた。期間を延長した結果,やり直しを余儀なくされた形質転換体の作成も順調に進めることができ,概ね順調に進展したといえる。
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今後の研究の推進方策 |
浸透圧・塩ストレス応答に関する表現型観察から,atccr4変異株は各種ストレスに対する耐性が強くなり,APUM5過剰発現体は逆の表現型を示すことが明らかとなった。この結果は,AtCCR4とAPUM5が協調してストレス応答性遺伝子を負に制御していることを示唆する。今後は,この表現型を分子レベルで理解するために,表現型の原因遺伝子の探索と同定を試みる。さらに,上述の仮説を遺伝学的に証明するために必要なatccr4変異株とAPUM5過剰発現体を交配した株の作成を進める。
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