研究実績の概要 |
植物はある一定の環境ストレスに晒されるとそのストレスに耐性を示すようになる。そこには多くのストレス応答性遺伝子の発現誘導が関わっている。しかし,ストレス応答性遺伝子の発現は耐性の獲得とのトレードオフとして、成長の抑制を引き起こすことがある。ゆえに植物にとって好ましい環境条件に戻ったときに,ストレス応答性遺伝子のmRNA量を急激に減少させる必要があり,そこにはmRNA分解の活性化が関わっていると考えられている。しかし,その機能分子は明らかとなっていない。本研究の目的は,mRNA分解の律速段階を担うシロイヌナズナのポリA分解酵素AtCCR4のストレス応答における役割を明らかにすることである。本年度は,atccr4変異株にAPUM5過剰発現体に見られたストレス応答の表現型を分子レベルで理解するために,ストレス応答時の遺伝子発現を経時的に解析した。まず,APUM5が結合することがすでに示されているいくつかのストレス応答性遺伝子の発現パターンを,atccr4変異株と野生型株で比較した(Huh and Paek, BMC Plant Biol., 2014)。その結果,期待したような違いは検出されなかったため,atccr4変異株が示す表現型の原因遺伝子は他にあるものと考え,遺伝子発現の網羅解析であるRNA-seqを行った。同時に,APUM5過剰発現体とその野生型株を用いたRNA-seqも行った。今後は得られたデータの検証をさらに進めることにより,ストレス応答におけるポリA分解酵素の役割の理解が進むことが期待される。一方で,AtCCR4とAPUM5が協調してストレス応答性遺伝子を制御していることを,遺伝学的に実証するために必要な,atccr4変異株とAPUM5過剰発現体を交配した株の作成も進めた。
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