研究領域 | 植物の成長可塑性を支える環境認識と記憶の自律分散型統御システム |
研究課題/領域番号 |
18H04774
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
竹澤 大輔 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (20281834)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | コケ植物 / ABA / 浸透圧 / 低温 |
研究実績の概要 |
植物は、乾燥や低温などの環境変化にさらされると、内生アブシジン酸(ABA)のレベルを上昇させ、ストレスによる細胞の損傷を防いでいる。しかし、これら環境変化の感知機構や、シグナルを統合して制御する仕組みは不明である。本研究では、ヒメツリガネゴケで同定されたABAやストレスシグナルの統合的制御に関わるRaf様プロテインキナーゼの機能解析、特に活性の制御機構と下流因子解析を中心に研究を進めてきた。 Raf様プロテインキナーゼARKの活性に必須であることが明らかとなったSerのリン酸化について、抗ARK抗体やリン酸化に特異的な抗体を用いて変動を解析した。ARK のリン酸化はABAにより亢進することが明らかとなっているが、高浸透圧処理によっても活性化することがわかった。ARKは高浸透圧処理により2段階の活性化を受け、リン酸化の変動は下流因子であるSNF1様プロテインキナーゼ(SnRK2)の活性変化と相関があった。ABA欠損株ではARKリン酸化の高浸透圧応答がほとんど見られず、高浸透圧応答に内生ABAを必要とすることが明らかとなった。 被子植物では3つあるSnRK2サブグループのうち、サブグループIIIのみをもつコケ植物のSnRK2の機能とARKとの関わりについて解析した。コケSnRK2(PpSnRK2A~D)四重変異株を用いた解析からは、サブグループIII SnRK2が陸上植物のABA応答における原型的な分子種であることが示唆された。また、リン酸化プロテオム解析から、コケのABA応答におけるARK-SnRK2の主要な役割が示唆された。ARKはPpSnRK2BおよびPpSnRK2DのActivation loop内の特異的なセリン残基をリン酸化し、その特異性はサブグループIII SnRK2のActivation loopに保存されたアミノ酸配列に強く依存することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ストレス応答に関わる遺伝子のゲノム編集株の作出とその評価をすることができた。苔類のABA受容体であるMpPYL1のゲノム編集株の解析から、数多くのLEA遺伝子や乾燥耐性獲得時に見られるショ糖の蓄積がABA特異的に制御される膜輸送体によって行われていることが示唆された。結果の一部は2つの論文にまとめることができた。
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今後の研究の推進方策 |
ARKの機能解析については、ARKの欠失解析と相互作用タンパク質の解析から活性と相互作用の関係を明らかにする。これまでに取得したコケ変異株のゲノム解析を進め、相補実験やゲノム編集により責任因子を同定する。ARK相互作用因子として同定した候補については、遺伝子を改変した形質転換体におけるABA応答やストレス応答変化を調べる。また、ARKとの関わりをキナーゼアッセイなどにより解析し、ABAおよび環境ストレス応答性に関わる新規シグナル経路の解明を目指す。
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