多細胞生物である高等植物が全身的に協調した成長を達成するためのシグナルの実体や作用メカニズムには不明な点が多い。茎の協調的な伸長の制御では、機能冗長的な2つの分泌型ペプチドEPFL4とEPFL6が、その受容体のERECTA (ER)によって篩部伴細胞で受容されると、篩部伴細胞から茎の伸長を導くさらなる作用が発生すると考えられている。実際に、er変異体やepfl4 epfl6二重変異体では背が低くなる。また一方で、epfl6単独変異体は、通常培養条件下では何の異常も見られないが、低温下では花器官に異常が生じ、受粉が達成できないという特徴を持つことも見えてきた。すなわち、EPFL6は低温時の受粉達成に必須の役割を果たすと考えられる。EPFL4とEPFL6によく似た因子としてEPFL5が存在するが、epfl4 epfl5 epfl6三重変異体を作成し観察したところ、この三重変異体は通常温度下でもepfl6変異体は低温下で見せるのと同じ花器官の異常を呈し受粉しなかった。このことから、通常温度下においてはEPFL4、EPFL5、EPFL6が機能冗長的に受粉達成に関わると考えられる。以上のような特徴を持つEPFL4、EPFL5、EPFL6の関わるシグナル経路が作動させる仕組みの解明を目指して、EPFL6シグナルをOFFからONに切り換えた際の遺伝子発現の変動をRNA-seqを実施し、それら変動遺伝子群の中でも特に篩部で働く可能性を持つ因子を約28個抽出して解析を行った結果、茎伸長に明確な異常を持つ因子は未だ見出してはいないが、変異体が受粉に異常を持つような因子は見つかった。さらにこの因子は篩部に特異的に発現していることも判明した。この因子は過去にその機能の報告が一切なされていない新規因子であり、今後の機能解明が期待される。
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