研究領域 | 植物の成長可塑性を支える環境認識と記憶の自律分散型統御システム |
研究課題/領域番号 |
18H04783
|
研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
西條 雄介 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 准教授 (50587764)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 植物免疫 / 遺伝子発現 / エピジェネティクス / ヒストン修飾 |
研究実績の概要 |
植物は、病原菌の侵入部位で防御応答を起こすとともに非感染部位(システミック葉)にもシグナルを伝えて全身で免疫機能を高めた状態になる(プライミング)。転写抑制型のヒストン修飾(H3K27me3)を司るポリコーム複合体PRC2が、一般的理解に反して、防御応答遺伝子の発現準備を介して全身性免疫の強化・記憶化を促進する機能を持つことを示し、その分子メカニズムの解明を進めた。まず、システミック葉において、プライミング成立に先立ち誘導される初期応答遺伝子をRNA-seq解析によりリスト化した。また、本研究開始前に取得したChIP-seqデータの解析を進めて、H3K27me3に加えて、転写促進型のヒストン修飾H3K4me3の動態を記述(ヒストン修飾レベルのを定量化)し、標的遺伝子座についてもリスト化した。これらのリストと、以前に取得していたプライミングの標的遺伝子リストの中でCLF依存的な遺伝子セット同士を照合させたところ、プライミングの成立とH3K27me3の変化に高い相関は認められない一方でH3K4me3との間には相関が認められた。しかしながら、初期応答とH3K4me3、プライミング成立の間で標的遺伝子の重なりはほとんどなく、8遺伝子のみが共通の標的遺伝子であった。したがって、植物の全身性獲得免疫において、CLF-PRC2は異なる標的遺伝子セットの発現制御を介して防御応答の初期誘導とプライミングをともに促進する可能性、もしくは共通の8遺伝子にはプライミングの鍵を握る制御因子が含まれている可能性が示唆された。また、これまで種子の胚発生制御に重要な他のPRC2サブタイプも全身性免疫プライミングに寄与することを示す証拠も得た。並行して、全身性免疫プライミングに関するシロイヌナズナ種内多型も明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
植物免疫の全身性プライミングにおいて、シロイヌナズナのヒストン修飾因子の機能欠損変異体を用いた遺伝学的解析により、以前に示していたCLFに加えてMEAも必要であることを示して、H3K27me3を司るPRC2に依存していることを確実にした。また、RNA-seq解析により、局所的な一次接種後システミック葉においてプライミングに先立ち遺伝子発現が変動する遺伝子をリスト化した。これらの遺伝子リストと以前に得たプライミング標的遺伝子リスト(RNA-seq)やH3K27me3及びH3K4me3の標的遺伝子座リスト(ChIP-seq)と照合した。その結果、CLF依存的に、システミック葉において標的遺伝子の①初期誘導と②H3K4me3の増加並びに③プライミング状態の成立が起こること、その際、CLF機能がシステミック葉で必要になることを示した。しかしながら、意外なことに、上記の①②③の標的遺伝子は大部分が異なっており、ごく少数(8種類)の遺伝子が全てで共通であることがわかった。現在、この8遺伝子が植物免疫(全身性獲得免疫や全身性プライミング)に果たす役割について主に遺伝学的解析により検証を進めている。同時に、MEAに着目して、上記と同様に変異体において遺伝子発現解析やH3K4me3・H3K27me3に関してChIP-seq解析を進めている。 上記と並行して、シロイヌナズナの60アクセッションにおいて、全身性免疫プライミング応答を定量化し、種内多型解析を進めた。その結果、プライミング応答性が低いアクセッションも複数得ることが出来ており、原因遺伝子基盤の解明に向けて標準アクセッションCol-0等との交雑からリソース整備を進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)上述の遺伝子発現プライミング・初期誘導・H3K4me3増加の全てについて共通してCLF依存的に起こる8遺伝子に着目し、機能欠損変異体の表現型解析やそれらの発現制御の詳細な解析を通して、それらが全身性獲得免疫や免疫プライミングに果たす役割や作用機序について明らかにする。(2)また、mea変異体とclf変異体における遺伝子発現解析やH3K4me3, H3K27me3に関するChIP-seqデータを照合して、両者で共通の標的遺伝子をリスト化し、植物免疫プライミング制御におけるPRC2の役割を明らかにする。項目(1)、(2)それぞれについて成果をまとめて論文発表を行う。 また、(2)で明らかになったPRC2の制御標的遺伝子のうち複数遺伝子に着目して、H3K4me3やH3K27me3の動態変化や連動して起こる他のエピジェネティック標識動態、並びにPol IIポージング動態についてChIP-PCR解析により調査する。さらに、特に葉において発生など多面的な機能をもつCLFとは異なり、おそらく免疫プライミングにより特異的に寄与すると考えられるMEAに着目して、PRC2に関するタンパク質生化学的解析やChIP解析を進める。
|