研究領域 | 植物の成長可塑性を支える環境認識と記憶の自律分散型統御システム |
研究課題/領域番号 |
18H04790
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
玉田 洋介 基礎生物学研究所, 生物進化研究部門, 助教 (50579290)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | クロマチンステート / 細胞記憶 / ヒストンバリアント / クロマチン構造 / 植物 |
研究実績の概要 |
細胞記憶の統御に必須の役割を果たしているのがクロマチンステートである。本研究は、クロマチンステートの構成因子であるクロマチン修飾とヒストンバリアント、クロマチン構造がどのように相互作用しながら植物の自立分散型記憶を統御しているのかを解明することを目的とする。特に、ヒストン修飾や細胞記憶を制御することが分かりつつあるヒストンバリアントH3.3およびH3.3をクロマチンに挿入するヒストンシャペロンHIRAに注目しつつ、研究を進める。 1, H3.3およびHIRAのクロマチンステートに対する機能の解明 HIRA遺伝子欠失株と野生株を用いたChIP-seqについてさらなる解析を行った。HIRA遺伝子の欠失によりH3K27me3の局在が減少することを明らかにしていたが、H3K4me3の局在にはH3K27me3ほどの顕著な変動がみられなかった。また、H3.3とH3全体の局在は多くの遺伝子領域において減少していたが、H3K27me3の局在が減少する遺伝子座においてH3.3とH3全体の局在減少が顕著であるわけではなく、またそうした遺伝子座ではH3.3とH3全体の局在減少以上にH3K27me3の局在が減少していた。これらの結果は、H3.3の局在減少が間接的にH3K27me3の局在減少を引き起こしていることを示唆している。 2, H3.3の下流に存在して細胞記憶制御を担う分子の同定 H3.3およびHIRAによりH3K27me3を介して抑制される因子の一つとして同定した転写因子SBPについて機能解析を行った。その結果、幹細胞化の抑制に加えて、多様な組織の成熟時における細胞伸長に機能することを示す結果を得た。組織成熟時における細胞伸長は細胞分化のマーカーの一つである。以上の結果から、SBPは細胞分化の促進と細胞記憶の維持に機能するという仮説を立てた。この仮説を検証するためにはSBPの標的遺伝子を同定する必要があり、野生株とSBP遺伝子四重欠失株を用いたトランスクリプトーム比較が進行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度行う予定であった実験のうち、ヒストン修飾とヒストンバリアントのChIP-seq解析については順調に進んでいるが、クロマチン構造を解明するATAC-seq(もしくはMNase-seq)については本年度内に終了することができなかった。その一方で、HIRA-H3.3の標的遺伝子の一つであるSBPについては、多様な組織の成熟時における細胞伸長という機能を解明し、SBPの標的遺伝子を明らかにするために、それらの組織を用いたRNA-seqによるトランスクリプトーム比較を進めるなど当初の予定以上の進展があった。以上の点をまとめて、「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
1, H3.3およびHIRAのクロマチンステートに対する機能の解明 ヒストンバリアントH3.3がクロマチン構造にどのような影響を与えているかを明らかにするため、H3.3遺伝子ノックダウン株、およびHIRA遺伝子の欠失株を用いてATAC-seqもしくはMNase-seqを行う。また、作出済みのHIRA-YFP株およびYFPを特異的に認識する抗体を用いたChIP-seqを行い、HIRA結合領域をゲノムワイドに同定する。この実験には、試料の調製が容易なヒメツリガネゴケ原糸体を用い、すでに得られているヒストン修飾などのChIP-seq解析の結果と合わせて、H3.3およびHIRAのクロマチンステートへの機能を解明する。 2, H3.3の下流に存在して細胞記憶の修正を担う分子の同定 H3.3とHIRAの下流に存在して細胞記憶の修正に機能する遺伝子の探索を継続する。細胞記憶の修正に異常を示すHIRA遺伝子欠失株、H3.3遺伝子ノックダウン株において、H3K27me3レベルが著しく低下し、遺伝子発現が有意に上昇する数百の遺伝子群から、転写因子遺伝子、クロマチン関連遺伝子などを選抜して機能解析を行い、細胞記憶に機能する因子があるか探索する。 また、H3.3およびHIRAの下流で細胞記憶の修正に関与する因子の一つである転写因子SBPについては、RNA-seqの結果を解析し、SBP遺伝子の欠失によって、複数の組織で共通に発現変動する遺伝子群をSBP遺伝子の下流遺伝子群として抽出する。この遺伝子群についてGene Ontology解析を行うとともに、特に発現変動が大きい遺伝子群について、遺伝子欠失や過剰発現による機能解析、およびコードするタンパク質の局在解析を行うことで、SBPの細胞記憶に対する機能を解明する。
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備考 |
アウトリーチ活動など 研究者紹介「海外(たび)に出よう! 5年間の海外ポスドク生活で得られたもの」、新学術領域研究「植物の成長可塑性を支える環境認識と記憶の自律分散型統御システム」第4回若手の会、2018 愛知教育大学の一年生30名、教員2名に研究紹介、岡崎、2018
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