研究領域 | 代謝アダプテーションのトランスオミクス解析 |
研究課題/領域番号 |
18H04795
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
中山 啓子 東北大学, 医学系研究科, 教授 (60294972)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | RASシグナル / 細胞老化 / トランスオミクス解析 / エピゲノム制御 |
研究実績の概要 |
RASシグナルに応答して変化するヒストン修飾を明らかにすることが本研究の目的である。哺乳類培養細胞であるNIH 3T3細胞ににRAS遺伝子を導入してRASシグナルを誘導後、35日間にわたりRNAとクロマチンを経時的に回収し、注目している遺伝子郡の転写量とエピゲノムの変化について、解析を行った。持続的なRASシグナルの誘導は、野生型RAS および活性型変異RASであるRASG12Vを用いた。二種類のRASを用いたのは、その活性が異なるからであり、RASの活性レベルによる変化を調べる事を目指した。タイムコースは、RAS活性化後、2日目、4日目、7日目、12日目、25日目.35日目、45日目と観察を行った。その結果、ヒストンH3 Lys27のメチル化修飾は、35日目まで徐々に増加しすることが判明した。このような長期間(35日間)にわたり変化し続ける修飾を「適応的ヒストン修飾」と考え、このような適応的ヒストン修飾の変化に注目した。
同時に転写レベルの変化を調べると、4日目から7日目には、すでに変化が終了しており、少なくともヒストンH3 Lys27のメチル化修飾と転写量との関係を調べると、転写量の変化が先行して起こっていることが示唆された。
さらに持続的なRASシグナルがヒストンH3 Lys27のメチル化修飾を増加させる分子機構を明らかにするために、メチル化修飾量が増加する遺伝子領域での、修飾酵素の動態の変化について検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通り、RASシグナルに応答して変化するヒストン修飾を明らかにすることができた。哺乳類培養細胞であるNIH 3T3細胞ににRAS遺伝子を導入してRASシグナルを誘導後、35日間にわたりRNAとクロマチンを経時的に回収し、注目している遺伝子郡の転写量とエピゲノムの変化について、解析を行い、転写とヒストン修飾の関係について明らかにすることに成功した。
今年度は個別の遺伝子についての検討を行ってきたが、それをモデル遺伝子として、さらに網羅的解析に進む予定であり、今年度の結果は、本課題遂行において非常に有用な情報を提供した。
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今後の研究の推進方策 |
RASシグナルに応答して変化する代謝変化を明らかにする。哺乳類培養細胞にRAS遺伝子を導入してRASシグナルを誘導後、35日間にわたりRNAとクロマチンを経時的に回収する。今後は、網羅的な解析にうつり、トランスクリプトームとエピゲノムのトランスオミクス解析を行い、持続的なRASシグナルに応答して変化するヒストン修飾を明らかにする。特にRASシグナル誘導後、短期間(5日間)で変化する修飾と、長期間(35日間)にわたり変化し続ける修飾とに分類し、「適応的ヒストン修飾」の変化を観察する。この適応的ヒストン修飾の変化が起こる遺伝子領域に注目し、これらの遺伝子が代謝機能に関わる可能性をGene ontology解析とGene Set Enrichment解析により調べる。また、適応的ヒストン修飾の変化とヒストンH3 Lys27メチル化修飾の変化との関連を明らかにする。
持続的なRASシグナルがヒストンH3 Lys27のメチル化修飾を増加させる分子機構を明らかにする。RASシグナルに応答してメチル化修飾量が増加する遺伝子領域では、メチル化酵素PRC2が増加するか、脱メチル化酵素UTX/JMJD3が減少するか、あるいはその両方の変化が起きていると考えられる。そこでRASシグナルを誘導後、メチル化酵素PRC2と脱メチル化酵素UTX/JMJD3のクロマチン局在の変化をChIP-seq解析により明らかにする。
解析には酵素を特異的に認識する高性能の抗体を必要とするので、はじめに抗体の性能評価を慎重に行う。抗体の入手が困難な場合は、CRISPR-Cas9を用いたゲノム編集により内在性のメチル化酵素EZH2と脱メチル化酵素UTX/JMJD3をタグ標識し、タグ抗体を用いて解析を行う。
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