本研究では、プロテインキナーゼに焦点を当て、そのキナーゼ活性とキナーゼ自身の翻訳後修飾との関連性、すなわちキナーゼの活性制御メカニズムをキノームレベルで一斉解析する手法の開発を目的とする。 本年度の研究において、最初に、より正確なキナーゼ活性計測の達成を目的として、使用する基質ペプチドの再設計を行った。前年度の研究において、セリン/スレオニンキナーゼについて設計した187基質ペプチドの内、約半数が標的のキナーゼあるいはファミリーによって高選択的にリン酸化されることが示されたが、その他のキナーゼについては十分な選択性が得られていなかった。大規模なin vitro基質の取得によるキナーゼ特異的なリン酸化チーフおよび、基質ペプチドの選出法の改良を行い、基質ペプチドを再設計した。in silicoによる選択性評価の結果、従来の基質ペプチドよりも高い選択性を有することが示された。 また、チロシンキナーゼについてはほとんどのキナーゼにおいて基質選択性が類似していることから、ほとんどのキナーゼについて十分な選択性が得られていないことが分かった。一方で、各チロシンキナーゼは合成基質ペプチドライブラリに対して特有のリン酸化プロファイルを示していたことから、測定対象とする試料と組換え体キナーゼによる基質ペプチドライブラリのリン酸化プロファイルの相同性から、試料中のキナーゼ活性変動を評価可能であることが示唆され、実際に摂動に応じた標的キナーゼおよび下流に位置するキナー群の活性変動が観測された。 上述の手法を用いて、キナーゼ阻害薬で刺激を行った細胞に対してリン酸化プロテオーム解析と人工基質ペプチドを用いたキナーゼ活性計測を行い、活性制御に重要と考えられるキナーゼ自身のリン酸化部位の同定を行った。
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