公募研究
共進化する生物同士にはしばしば,特定の相手としか相互作用しないというパートナー選択の特異性がみられる.このような特異性を担う分子的実体の多くは受容体とリガンドのような「鍵と鍵穴」のシステムであるが,新しい特異性,すなわち「新しい鍵と鍵穴のセット」はどのように進化するのかという問題が以前から指摘されていた.鍵と鍵穴のいずれかが変化すれば互いに認識されず,特異性は崩れてしまう.このような中間状態を乗り越え新しい特異性はどう進化するのか.本研究では,自家受精を防ぐ自己認識機構である植物の自家不和合性を対象に,シミュレーションモデルとアミノ酸置換実験によりS対立遺伝子の進化過程を予測・再現することを通して,特異性のゆらぎと新しい鍵と鍵穴の進化可能性との関係を,理論と実験の両面から探ることを目的としている.進化シミュレーションモデルを作成し,新しいS対立遺伝子の進化と特異性のゆらぎの関係を探索した.その結果,特異性のゆらぎがあることでたしかに新しいS対立遺伝子とその祖先のS対立遺伝子の共存が促進されること,特異性のゆらぎが中程度のとき,もっとも共存が起こりやすいことなどが明らかになりつつある.また,胞子体型自家不和合性で知られているS対立遺伝子間の優劣性もモデルで考慮したところ,新しいS対立遺伝子の優劣性がもっとも劣性でない限りは新しいS対立遺伝子が進化可能であることも明らかになった.これらのモデル解析と並行して,現在アミノ酸置換実験を進めているところである.
3: やや遅れている
モデル解析に関しては概ね順調であるが,アミノ酸置換実験に関しては,形質転換に時間がかかることもあり,まだ明確な結果は出ていない状況である.
モデルに関しては,現在あるシミュレーションモデルをさらに詳しく解析するとともに,Billiard et al. (2007) に基づいた数理モデルによる解析も進め,現在得られている結果の妥当性を確認する.また,アミノ酸置換実験で得られる結果について,モデルで予測されるデータかどうかを検討する.
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Molecular Plant-Microbe Interactions
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1094/MPMI-02-19-0039-R
Development, Growth & Differentiation
巻: 61 ページ: 12~24
10.1111/dgd.12578
KAGAKU TO SEIBUTSU
巻: 56 ページ: 317~323
10.1271/kagakutoseibutsu.56.317
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