研究領域 | 進化の制約と方向性 ~微生物から多細胞生物までを貫く表現型進化原理の解明~ |
研究課題/領域番号 |
18H04818
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
田中 幹子 東京工業大学, 生命理工学院, 准教授 (40376950)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 進化発生 / 進化 |
研究実績の概要 |
脊椎動物は陸上への進出に伴い、高濃度の酸素環境に曝されることとなった。本研究では、上陸に伴う酸化ストレスによって、新奇形質を生み出した形態形成プロセスの揺らぎの解明を目指す。 羊膜類の四肢の形成過程では、指間領域の細胞が細胞死によって取り除かれ、指が分離する。一方、両生類アフリカツメガエル幼生の肢芽では、指間細胞死のシステムが確立しておらず、それぞれの指が伸長することによって分離する。このことから、指間細胞死は、脊椎動物が進化の過程で新しく獲得した形質であると考えられている。本研究では各種脊椎動物をモデルに、酸化ストレスによってのみ指間細胞死という新奇形質が出現する系を用いて、四肢の形態形成プロセスの揺らぎを検出し、その分子機構に迫ることで、脊椎動物の上陸に伴う環境変化が新奇形質を生み出す原理を明らかにすることを目的とする。 2018年度は、環境酸素濃度によって大きく揺らぎ、生体内に ROS を大量に産生させうると考えられる経路のうち、(1)グルコース代謝の揺らぎが、新奇形質を獲得させた可能性を検証した。この目的で、指間領域のメタボローム解析や、肢芽におけるグルコース代謝関連遺伝子の発現解析、及びグルコース代謝が細胞死に与える影響の検証を行った。その結果、肢芽の発生過程では、細胞増殖期から指間細胞死期を通して、酸化的リン酸化によるグルコース代謝が行われていることが明らかとなった。そこで、当初の計画に加えて、(2) 血管形成との関連性についての検証も始めることとした。まず、ニワトリ胚を用いて、指間における血管形成段階と ROS と細胞死の関係を経時的に検証したところ、血管リモデリングがおこる場所で順番に指間での ROS レベルがあがり、細胞死が引き起こされることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画では、2018年度は、(1) 高濃度酸素環境に曝されたことにより、代謝経路が好気的リン酸化経路に切り替わり、ROS を大量に産生することになった可能性の検証のみを行う予定であったが、計画書にあったメタボローム解析、遺伝子発現解析等の研究をすべて行った上で、肢芽の発生過程では、細胞増殖期から指間細胞死期を通して、酸化的リン酸化によるグルコース代謝が行われており、代謝の切り替えは起こっていないことを明らかとした。 そこで、当初の計画に加えて、(2)血管形成との関連性についての検証も始め、血管リモデリングがおこる場所で ROS レベルがあがり、細胞死が引き起こされることを明らかにした。これらのことから、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度までに、(1)グルコース代謝経路との関連性について明らかにしたので、2019年度は、(2)血管形成との関連性について、さらに検証する。これまでの研究から、指間細胞死が検出される領域では血管網が発達していること、さらに人為的な血管網の発達により指間細胞死を誘発できることを確認している。また、脊椎動物が高濃度酸素に曝されることと指間領域の血管網の発達との関連性、さらに、血管網の発達が ROS の産生を促す機構も不明であった。2019年度は、これらの点を明らかにする目的で、① 酸化ストレスと指間領域における血管形成の関連の検証、及び ② 指間領域における血管形成期に ROS の産生を促すソースの探索を行う。これらの研究により、環境変化が四肢形成過程のどの経路の揺らぎに働き、指間細胞死という新しい形質を生み出し得たのか、その進化原理を明らかにする。
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