研究領域 | 植物の生命力を支える多能性幹細胞の基盤原理 |
研究課題/領域番号 |
18H04831
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
有村 慎一 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (00396938)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 植物ミトコンドリア |
研究実績の概要 |
細胞質雄性不稔ナタネSW18のミトコンドリアゲノム配列・構造を決定し,論文報告した.SW18は25年前に植物工学研究所でコセナダイコンとの非対称細胞融合法によって作られ,ミトコンドリアゲノムは10%程度のコセナダイコンミトコンドリアゲノム断片を保有しており,二種の非対称な融合組換え構造をもっていた(業績論文、Genes Genet Syst. 2018 Nov 10;93(4):143-148. doi: 10.1266/ggs.18-00005.).特に農業重要形質の細胞質雄性不稔原因遺伝子をほぼピンポイントに移植することに成功していたことから、ナタネとしての優良形質をみ出さずに、コセナダイコンの雄性不稔性だけを移植できており、実用上優れた個体が作出されていたことが、ゲノムレベルで明らかにすることに成功した。植物ミトコンドリアゲノムは形質転換が不可能だが,人工制限酵素TALENにミトコンドリア移行シグナルを付加し発現させる方法(mitoTALEN法)で,ナタネとイネで標的遺伝子破壊に成功している.破壊標的配列はDSB後にNHEJ修復されずに,ゲノム上の別配列との相同組換えでゲノム構造が大きく変化したことが明らかとなったため,先進ゲノム支援のサポートを受けつつ,ミトコンドリアゲノム全体の構造解析を行った.イネとナタネでは,核ゲノムへ発現ベクタを形質転換する際にカルス化が必要であり、之までmitoTALEN法ができなかった(Floral dipping法をもちいる)シロイヌナズナにおいても,標的配列とプロモータ配列の変更により標的遺伝子破壊に成功することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
植物幹細胞に関連する組織、茎頂メリステムにおけるミトコンドリア形態解析について、ライブイメージングを行った。この部位そのものが複雑な形態を持っているため、内部詳細構造にピントが合わず、理研豊岡博士との共同研究により共焦点顕微鏡と電子顕微鏡を組み合わせた多角的解析を行った。ミトコンドリアゲノム構造について、細胞融合系統について決定することができ、これは論文発表を行うことができた。細胞融合後に両細胞由来のミトコンドリアゲノム断片が複数の組み換えを行った型になりつつ、農業上重量遺伝子である細胞質雄性不稔原因遺伝子を中心とした非常に偏った形で引き継がせることに成功していることなどを明らかにしたことで、農学上も理学上も意義ある発表を行うことができた。また、幹細胞での高発現プロモーターを探索することで、ミトコンドリアゲノム編集技術の改良を目指しており、これについては新学術領域内の複数の研究者との共同研究が役に立っている。
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今後の研究の推進方策 |
植物ミトコンドリアゲノムの改変に成功しており、これを幹細胞を通した高効率化、次世代安定化の改良を行っている。これを行うことで、多彩な植物(モデル植物と農業重要作物)に合わせたミトコンドリアゲノム改変に繋がる。 シロイヌナズナ呼吸系遺伝子を標的に遺伝子破壊を行ったところ,完全破壊株がみつからなかったが,一部のDNA分子が破壊されたheteroplasmyが検出されており、今後mitoTALEN導入による(特に斑入り個体における)キメラ性とミトコンドリアゲノムのheterolasmy性を検討していく.人為的な誘導発現ベクターをもちいたmitoTALEN発現によってゲノム切断・修復・heterolasmy性の変遷等を解析していく.植物の脱分化と細分化過程における、野生型ミトコンドリアゲノムと改変型ミトコンドリアゲノムの保持形態と増殖維持過程を調べることで、長年不明であったミトコンドリアゲノムの複雑さを持ちながらの維持過程の機構解明を行っていく。
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