研究実績の概要 |
真核生物では、翻訳後修飾の一つである糖鎖はその構造的多様性から様々な生物学的プロセス、タンパク質の安定性や輸送、機能などの制御に関与する。一般的に、糖タンパク質は小胞体やゴルジ体のオルガネラにおいて糖鎖で修飾され、適切な場所に運ばれ機能するとよく知られているが、その詳細な分子機序は必ずしも明らかになっていない。本研究では、糖鎖の変化による膜上のインテグリンの局在、挙動および細胞内シグナルの制御を解析し、糖鎖によるインテグリンの選別輸送ゾーンの制御とその分子機序の解明を目指す。複合型のN-型糖鎖生合成に最も重要とされる糖転移酵素N-acetylglucosaminyltransferase1(GnT-I)の欠損により、複合型N-型糖鎖の持たないインテグリンβ1は、機能低下を示し、通常の複合型糖鎖を持つβ1に比べて細胞-ECM間ではなく、細胞-細胞間に多く輸送された(Zhang, et al., FASEB J. 2018)。TGNに多く存在するPI4キナーゼIIαの発現は、インテグリンのシアリル化を制御することが判明した(Isaji, et al., JBC. 2019)。また、O-GlcNAcの修飾が細胞膜近傍の細胞-ECM接着にβ1を介する形成される細胞接着斑の制御に重要であるが明らかになった(Xu, et al., JBC. 2019)。一方、特定なシアル酸転移酵素による糖鎖のシアリル化がインテグリンの輸送制御に関わることを示している(投稿準備中)。現在、それらの分子機序と意義を詳細に解析している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに細胞の主要な細胞接着分子であるインテグリンや増殖因子受容体であるEGFRやTGF-βRなどのN-型糖鎖付加部位や糖鎖構造に注目し、改変された糖鎖を持つ受容体の機能を重点的に調べてきた。本研究では、初めて糖鎖がインテグリンの機能、局在および選別輸送ゾーンの制御に深く関わることを明らかにした。複合型N-型糖鎖の持たないインテグリンβ1は、野生型β1に比べると機能低下や細胞間に多く局在することを示した(Zhang, et al., FASEB J. 2018)。また、複数のα2,3シアル酸転移酵素の中にある特定なα2,3シアル酸転移酵素が選択的にインテグリンを修飾し、インテグリンの選別輸送ゾーンの制御に深く関わることを明らかにした(投稿準備中)。さらに、その制御は、PI4キナーゼIIαとインテグリンα3の複合体形成が重要であることを明らかにした(Isaji, et al., JBC. 2019)。
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