研究領域 | 細胞機能を司るオルガネラ・ゾーンの解読 |
研究課題/領域番号 |
18H04871
|
研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
潮田 亮 京都産業大学, 総合生命科学部, 研究助教 (30553367)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | レドックス / タンパク質品質管理 / ストレス応答 / 分子シャペロン / 小胞体 / 小胞体関連分解 / フォールディング |
研究実績の概要 |
我々は、小胞体で初めて還元酵素ERdj5を発見し、小胞体関連分解における分解基質のジスルフィド結合を還元し、その還元活性がタンパク質品質管理、特に小胞体関連分解に重要であることを明らかにした(R. Ushioda et al. Science 2008、R. Ushioda et al. Mol. Biol. Cell. 2013)。またERdj5全長の結晶構造を解き(M.Hagiwara et al. Mol. Cell 2011)、構造解析を基盤としたより詳細な分子メカニズムの解明に貢献してきた。さらに研究期間内で、ERdj5の新しい機能として、小胞体内腔のカルシウム調節にも関わることを明らかにし(R. Ushioda et al. PNAS 2016)、東北大学稲葉研との共同研究でSERCA2bカルシウムポンプの構造を世界で初めて解明した(Inoue et al. Cell reports, in press)。また最近では、小胞体膜上に存在するカルシウムチャネルの制御も担うという発見し、論文投稿準備中である。また、空間的なレドックスゾーンではなくストレス応答などによるレドックス変化や制御も確認しており、時空間的なレドックス制御を明らかに出来るのではないかと期待している。本研究課題では、これまで一様に酸化的とされた小胞体内腔でどのように還元酵素が還元力を有することが出来るのか、レドックス環境の構築メカニズムに挑んでおり、新たに新生鎖の翻訳と共役した小胞体内腔での電子伝達経路を見出している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ERdj5の還元メカニズムに関して新生鎖に着目し、小胞体に挿入された新生鎖の還元力が小胞体のレドックス環境に与える影響、およびERdj5の還元力の供給に着目して研究を行ってきた。ジスルフィド結合依存的クロスリンカーDVSFを用いることで、これまで同定された結合タンパク質とは異なるタンパク質を同定した(K.Araki et al. Anal. Biochem 2017)。ERdj5との結合タンパク質を同定し、酸化酵素Ero1が新生鎖からERdj5の電子の移行を仲介している可能性が強く示唆された。さらに、ERdj5、Ero1、PDIをそれぞれ精製し、試験管内などで酸素電極を用いた実験を行い、ERdj5がEro1から電子を奪う、決定的証拠をつかんだ。現在、ERdj5とPDI、Ero1の電子伝達の順番や結合サイトの特定に難航しているが、これらをまとめ論文投稿を早急に行う予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
還元酵素ERdj5への電子伝達経路に関するデータをまとめ、早急に論文投稿を目指す。また、小胞体内腔の電子伝達として、TMXファミリーに焦点を当て、研究を進める。特にTMX4は小胞体内腔で還元活性を持つが(Sugiura et al., J. Biol. Chem., 2010)、その機能は未だ不明である。興味深いことに、先行研究で、TMX4の膜貫通ドメインを切断するとレドックス状態が酸化状態に移行することが明らかになった。このことは、膜近傍に確かに局所的なレドックスゾーンが存在する証拠である。また、TMX4はDsbDと構造的に類似したVKOR(vitamin K epoxide reductase)と結合することがわかっている。我々の予備実験より、TMX4がVKORを還元することもわかっており、TMX4/VKORによるサイトゾルからの電子伝達を想定し研究を進める。また、レドックスネットワークを形成する構成因子には、小胞体関連分解の基質、またIP3受容体やSERCA2bなどのカルシウム制御因子も含まれており、実際の分解速度、カルシウム濃度の変化などで、評価することが出来る。このことにより、レドックスゾーンと小胞体恒常性維持機構を関連付けたいと考えている。特にERdj5欠損細胞ではミトコンドリアの分裂を引き起こすことが知られており、オルガネラゾーンによるオルガネラクロストークにも着目したい。
|