研究実績の概要 |
S-アシル化脂質修飾は、酵母から動・植物まで保存された普遍的な翻訳後修飾で、タンパク質の輸送や機能を制御する。S-アシル化反応は可逆反応であり、アシル化、脱アシル化両反応のバランスが外界刺激により制御されている。多種多様なS-アシル化タンパク質は、様々なオルガネラ膜や細胞膜に特異性をもって局在化するが、興味深いことに、私共が単離したS-アシル化関連酵素群も、小胞体やゴルジ体のみならず、エンドソームや細胞膜といった多様な細胞内局在を示す。そこで、私共は“タンパク質合成直後の小胞体やゴルジ体における選別輸送に加えて、細胞膜のような最終到達地においても、S-アシル化酵素と脱S-アシル化酵素が協調して「S-アシル化修飾ゾーン」を形成し、タンパク質の動的な局在制御を担っている”という仮説を検証する。本研究では、神経細胞のシナプス膜をモデルとして、その形成と機能発現における「S-アシル化修飾ゾーン」の役割を解明する。2019年度は、特異性を重視した免疫沈降法により脱アシル化酵素ABHD17の結合タンパク質を多数同定した。また、ミトコンドリアに局在化させた脱S-アシル化プローブ(mitoDPP)と私共の脱S-アシル化酵素ライブラリーを活用して、ミトコンドリアにおける脱S-アシル化酵素としてABHD10を同定した(Bryan Dickinson 博士(シカゴ大)との国際共同研究、Nat Chem Biol誌に発表)。さらに、私共のS-アシル化酵素ライブラリーを活用した国際共同研究により、CCR5(HIV-1ウイルスの受容体)のS-アシル化酵素(ZDHHC3,7)を同定し、その輸送機構を解明した(Franck Perez博士(キュリー研究所)との国際共同研究、Science Advances誌に発表)。
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