哺乳類の卵胞形成は、出生時に卵巣髄質領域に存在する顆粒膜細胞で覆われる第一波の卵胞形成と、皮質領域から派生した顆粒膜細胞で覆われる第二波以降の卵胞形成の大きく2つに分類される。我々は、第一波の卵胞形成に関わる顆粒膜細胞特異的にCreリコンビナーゼを発現するCreマウスを見出した。このCreマウスを用いて複数のリン脂質代謝酵素欠損マウスを作製したところ、オスのセルトリ細胞またはライディッヒ細胞のマーカー分子(Sox9やHsd17b3など)が卵巣で上昇するマウスラインを3種類見出した。本研究ではこれらの組織特異的リン脂質代謝酵素欠損マウスを用いて、リン脂質代謝と卵巣のメス化・オス化の度合いとの関連を解析するとともに、その分子機構を解明する。 本年度は、昨年度作製した不死化細胞とリン脂質代謝酵素欠損マウスを用いて分子機構の解明を行った。リン脂質のターゲット分子として既報から、細胞内シグナル伝達分子と転写因子を選定し、これらの遺伝子改変マウスを入手した。そしてリン脂質代謝酵素欠損マウスと交配し、表現型の回復、すなわち卵巣におけるオス関連遺伝子の発現低下を導く分子を探索した。その結果、転写因子欠損マウスとの交配により表現型が回復することを見出した。この表現型の回復は不死化細胞を用いた細胞レベルの実験でも確認された。以上の結果から、リン脂質は転写因子の制御を介して卵巣のメス化・オス化の度合いを調節することが示唆された。
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