研究実績の概要 |
無毒な種が有毒な種に紋様を似せて捕食から逃れるベイツ型擬態は広範な動物に見られる。多くの蝶ではベイツ型擬態はメスだけに見られるが、シロオビアゲハでは模様が異なる擬態型と非擬態型の2種類の雌が存在する。翅の紋様パターンは擬態と性選好(mate preference)の両方に影響を与えるが、その背景にある分子メカニズムはわかっていない。本研究では、 (A)なぜメスだけに擬態型が生じるのか、(B)集団における非擬態型dsx-hと擬態型dsx-Hの遺伝子頻度はどう異なるか、(C)擬態型dsx-Hは何らかの機能障害をもたらすか、(D)擬態紋様形成における擬態型dsx-Hの標的遺伝子を解明することを目的とする。 本年度は、シロオビアゲハの擬態型dsx-Hが機能障害をもたらすかについて、従来取得されていたデータをより信頼のおける統計処理によって再解析し、雌の成虫(蝶)ではHHで最も寿命が短くなり、Hh, hhの順に大幅に寿命が長くなることが検証された。擬態型雌HhとHHの後翅の紋様を調べると、辺縁部の赤色スポットの面積がHhに比べHHで倍程度に、中央部の淡黄色領域はHhに比べHHで6割程度になっていた。赤色スポットはhhでほとんど存在しないことから、色素合成の変動と成虫寿命にある程度相関があることがわかった。一方、擬態型dsx-Hの下流で機能する遺伝子として検索された3種類のホメオボックス遺伝子(aristaless, al; empty spiracle, ems; cut)の機能解析を行った。alとcutを擬態型翅でノックダウンすると辺縁部の赤色スポットが縮小し、emsをノックダウンすると、赤色領域が黒色領域に異所的に生じた。一方、各ノックダウン領域で相互に発現の影響があるかを調べたところ、dsx-Hの下流で相互に遺伝子ネットワークを形成していることが明らかになった。
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