研究領域 | 性スペクトラム - 連続する表現型としての雌雄 |
研究課題/領域番号 |
18H04885
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
磯谷 綾子 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 准教授 (20444523)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 性分化 / キメラ動物 / ラット / ES細胞 |
研究実績の概要 |
8細胞期に雌になるXX型胚と雄になるXY型胚を区別してそれぞれを集合させた雌雄キメラマウスの研究によって “性の表現型”は、細胞を取り巻く周りの環境も影響することが明らかになっている。集合法によって作られた雌雄キメラマウスは、約7割が雄として誕生し、ES細胞を胚盤胞にインジェクションして作製するESキメラマウスでも同様の傾向がみられる。性分化関連遺伝子の発現のタイミングを鑑みると、マウスでは雄への分化が早くはじまり、“性の表現型”に優位に働いていることが考えられる。一方で、研究代表者は、ラットのXY型ES細胞を用いたキメラでは、雌の表現型をもつ個体が、マウスの場合より明らかに多く誕生することを見出した。このことは、ラットとマウスの性分化のメカニズムが異なる可能性を示唆した。しかしながら、ES細胞は、胚盤胞期の内部細胞塊に類似した性質を有するものの、厳密には異なり、ES細胞の性質や状態が“性の表現型”に影響した可能性も考えられた。 そこで、2018年度は、本当にラットの性分化メカニズムがマウスと異なるのかを調べるため、キメラを作る細胞の性質が揃う8細胞期胚を用いた集合キメラ・ラットを作出し、雌雄キメラ・ラットの性比を検討した。集合キメラ・ラットでは、遺伝型解析により予測通り約半数のキメラ個体が雌雄キメラ・ラットになっていることを確かめた。さらに、このように作製した雌雄キメラ・ラットの性比を誕生時の外性器(肛門生殖突起間距離)で判断したところ、雄として誕生した個体が多いことが分かり、ラットでもマウスと同様、雄の性分化が優位であることが示された。 以上の結果より、ESキメラ・ラットで見られた性比の結果は、ラットES細胞の性質や状態が関わっている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は、ラットでは、着床前に雌雄の胚を区別する系が確立されていない為、Wistar系統、F344系統、DA系統の3系統のラットを用いて、8細胞期胚を用いてキメラ・ラットを作製する実験系を確立した。この3系統を用いることによって、X染色体上の多型の違いとY染色体の有無をPCRによる遺伝型解析を行うことができ、誕生したキメラ個体が雌雄キメラ・ラットかどうかを判別することができる。このようにして作製した雌雄キメラ・ラットの“性の表現型”は、雄への分化が優位であることが明らかになり、当初の計画目標を達成することができた。また、2019年度の計画に向けて、性染色体上にRFP遺伝子を持つラットES細胞を樹立するために、Y染色体をターゲットにノックイン・ターゲティングベクターを構築し、ラットES細胞に導入して、ノックインが成功しているESクローンを複数得ている。 また、2018年度は、ESキメラ・ラットで見られた雌雄キメラ・ラットの性比の偏りの違いが、マウスとラットの種差ではないことを結論付けることができ、性比の偏りにES細胞の性質が関わっている可能性を示唆することができたため、本研究は、おおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、ラットES細胞のどのような性質が雌雄キメラ・ラットの性比の偏りに影響を及ぼしたのかを調査する。特に、ラットES細胞は、マウスと異なりMEK阻害剤を含む2i培地での維持が必要になるが、MEK阻害剤は、マウスES細胞において維持型DNAメチル化酵素の発現を抑制することが報告されている。すなわち、ラットES細胞のゲノムDNAの状態は継代を繰り返すと低メチル化になることが予想される。そこで、性分化関連遺伝子を中心にラットES細胞におけるDNAメチル化状態を解析する。そして、さらにESキメラ・ラットを詳しく調べることによって、DNAメチル化状態とESキメラ・ラットの性比の偏りの相関性について調べる。 これらの実験は、2018年度に樹立を試みたY染色体上にRFP遺伝子を挿入したES細胞を用いて実施するとともに、このES細胞から着床前胚での雌雄識別システムをラットでも確立する。さらに、このシステムを用いて効率的な雌雄キメラ・ラット作出方法を樹立し、胎児期の雌雄キメラ・ラットの性分化がどのように進行しているのか、免疫学的組織学的解析等により詳細に調べる。
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