研究領域 | 性スペクトラム - 連続する表現型としての雌雄 |
研究課題/領域番号 |
18H04892
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
小林 慎 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (10397664)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | X染色体の不活性化 / エピジェネティクス / Long non-coding RNA / 疾患モデルマウス / 性差 |
研究実績の概要 |
性差は精巣と卵巣形成に由来するステロイドホルモンに起因すると考えられているが、申請者らは生殖腺が出来上がる以前の胚、すなわち精巣と卵巣の違いに由来しない時期に、発現に雌雄差を示す遺伝子がある可能性を検討してきた。Ftx/Fat60 遺伝子はこのようにして見つかってきた雌胚のみで発現するゲノムインプリントを受ける遺伝子の1つであり、タンパク質を作らない長いnon-coding RNA (lncRNA)である。Ftx lncRNAの生理的役割を理解するために、ノックアウトマウス系統を作製したところ、ノックアウト(KO)マウスの一部の雌はヒトの小(無)眼球症に似た症状を示した。興味深いことにこの表現型は雄のKOマウスでは見られず、表現型には性差がある。しかし、従来の遺伝学では、FtxのようなX染色体上にコードされた遺伝子のKOは、通常雄(-/Y)が雌(-/+)よりも重篤な表現型を示すはずで、このような遺伝パターンは説明がつかない。マイクロアレイ、qPCR、RNA-FISH解析からFtx KOマウスでは、一部のX連鎖遺伝子が不活性化X染色体上で活性化しており、「X染色体の不活性化(XCI)」が異常を示すことを明らかにした。これはXCIの異常が、表現型が雌のみで検出される原因であることを示唆している。さらに、Ftx KOマウスではXCIの主な制御因子であるXist RNAの発現レベルが低下し、FtxがXistの発現上昇調節に働くことを明らかにした。これらの結果から、Ftxは正常なXCIの制御・目の発生に必要であり、性差を示す疾患の原因として、新たにエピジェネティクス制御の一つであるXCIが関与することを提唱した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
成果は論文にもまとまり、これまで原因不明であった性差を示す現象を、非常に分かりやすく説明することに成功した。この成果は性差を示す疾患を理解する、全く新しいメカニズムの提唱であり、性差研究において大きな一歩であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
lncRNAの機能解析を進め、エピジェネティクス制御との関連を分子レベルで理解する。
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