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2018 年度 実績報告書

加齢の細胞文脈におけるがんの発生基盤となる染色体構造および動態の解明

公募研究

研究領域がんシステムの新次元俯瞰と攻略
研究課題/領域番号 18H04896
研究機関東北大学

研究代表者

田中 耕三  東北大学, 加齢医学研究所, 教授 (00304452)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2020-03-31
キーワード癌 / 細胞・組織 / 染色体 / 加齢
研究実績の概要

本研究では、がんの発生を加齢という細胞文脈でとらえ、加齢個体や様々ながん種の細胞の染色体構造・動態の画像データベースを構築することで、加齢にともなって現れる染色体構造・動態とがんの発生や進展との関連を明らかにすることを目的とする。がんは加齢にともなって増加する疾患であり、がん細胞と加齢個体の染色体構造にはヘテロクロマチンの減少など共通する特徴が存在する。そこで本研究では、加齢マウスや腫瘍形成モデルマウスより単離した細胞において、染色体構造とくに間期核のヘテロクロマチン構造やHP1(heterochromatin 1)の分布、および染色体動態とくに分裂期の染色体整列や反復運動(オシレーション)を解析して加齢やがん種における染色体構造・動態を調べることによって、がんの発生の分子基盤のさらなる理解につなげる。平成30年度は以下のような成果が得られた。
1. 加齢マウスにおける染色体構造・動態データベースの構築:様々な月齢のマウス組織より単離した線維芽細胞について、DAPI染色、H3K9me3, H3K27me3, HP1α・HP1β・HP1γなどの免疫染色を行い、クロマチン構造の評価を行った。
2. 加齢に伴う染色体安定性の解析:加齢マウスより単離した線維芽細胞について、免疫蛍光染色による染色体分配異常および微小核の出現頻度の評価を行った。その結果、マウスの加齢にともなって、微小核の出現頻度の増加が認められた。またマウス線維芽細胞の増殖は、低酸素条件(3%)で促進され、微小核を持つ細胞の割合も低下することがわかった。
3. 単一細胞ゲノム解析による染色体不安定性の評価:染色体不安定性のモデルとして、がん細胞株であるHeLaから、染色体分配異常の異なるクローンを単離し、単一細胞ゲノム解析による評価を行った。その結果、染色体不安定性の高いクローンでは遺伝的不均一性が大きいことが判明した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

まずマウスの長期飼育体制を確立することにより、24ヶ月齢以上の加齢マウスを定期的に入手することが可能となった。またマウスの耳から線維芽細胞を単離する手法を確立し、低酸素条件下で培養することで長期間の培養も可能となった。これらの実験手法の確立により、DAPI染色、H3K9me3, H3K27me3, HP1α・HP1β・HP1γなどの免疫染色も順調に行うことができている。興味深いことに、加齢マウスの線維芽細胞においては、微小核の出現頻度の明らかな上昇が見られ、これは加齢にともなって染色体の安定性が低下することを示唆するものと考えられる。一方、マウスから単離した線維芽細胞が高頻度に4倍体化することや、分裂期の細胞の割合が少なく、染色体分配異常の評価が難しいなどの問題点も明らかになってきている。これらについては、なるべく早期に観察を行うことや、低酸素条件でのライブセルイメージングなどで対処していく予定である。一方染色体不安定性のモデルとして、HeLa細胞を用いた検討を行った結果、単一細胞ゲノム解析によって遺伝的不均一性を評価する手法を確立した。これにより、染色体不安定性の程度が高いと遺伝的不均一性が増大すること、また3次元培養などのストレス条件下では、染色体不安定性の高い細胞の方が大きなスフィアを形成し、遺伝的不均一性は低下するという知見も得られている。これは、ストレス条件下で増殖優位性を持った細胞が選択されたことを示唆しており、染色体不安定性によるがん化のモデル実験系となるのではないかと考えられる。以上のように、多くのがんで見られる染色体不安定性が、加齢と共に出現するということを示唆するデータが得られてきており、また染色体不安定性による遺伝的不均一性を評価する手法も確立したことから、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。

今後の研究の推進方策

平成30年度の成果をふまえ、今年度は以下のように研究を推進する。
1. 加齢マウスにおける染色体構造・動態データベースの構築:様々な月齢のマウス組織より単離した線維芽細胞について、DAPI染色、H3K9me3, H3K27me3, HP1α・HP1β・HP1γなどの免疫染色を行い、機械学習によってクロマチン構造を比較する。また、FACSによるDNA量や細胞周期の評価、53BP1やγ-H2AXの免疫染色によるDNA損傷の評価、SA-β-Gal染色による細胞老化の評価等を行う。一方染色体動態については、染色体をsiR-DNAで可視化してライブセルイメージングを行い、分裂期進行や染色体分配の異常について評価する。
2. 加齢に伴う染色体安定性の解析:加齢マウスより単離した線維芽細胞の染色体不安定性を、ライブセルイメージングや免疫染色により評価する。またマウスの種々の臓器の切片を観察し、染色体分配異常や微小核の頻度と加齢との関連を検討する。
3. 単一細胞ゲノム解析による染色体不安定性の評価:染色体不安定性の程度の異なるHeLa細胞における、ストレス条件下での遺伝子発現の変化を、RNA-seqによって解析する。これを単一細胞ゲノム解析による染色体コピー数の変化と比較して、その相関を明らかにする。
4. 腫瘍モデルマウスにおける染色体構造・動態の解析:p53ノックアウトマウスより単離した線維芽細胞を用いて、1.と同様の検討を行い、加齢にともなう変化と比較する。またp53ノックアウトマウスで高頻度に出現するT細胞性リンパ腫細胞についても、染色体構造・動態について正常T細胞との比較を行う。

  • 研究成果

    (22件)

すべて 2019 2018 その他

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (17件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件) 備考 (2件)

  • [雑誌論文] Delayed Chromosome Alignment to the Spindle Equator Increases the Rate of Chromosome Missegregation in Cancer Cell Lines2018

    • 著者名/発表者名
      Kuniyasu Kinue、Iemura Kenji、Tanaka Kozo
    • 雑誌名

      Biomolecules

      巻: 9 ページ: 10~10

    • DOI

      10.3390/biom9010010

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Tetraploidy in cancer and its possible link to aging2018

    • 著者名/発表者名
      Tanaka Kozo、Goto Hidemasa、Nishimura Yuhei、Kasahara Kousuke、Mizoguchi Akira、Inagaki Masaki
    • 雑誌名

      Cancer Science

      巻: 109 ページ: 2632~2640

    • DOI

      10.1111/cas.13717

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Quantitative analyses of the metaphase-to-anaphase transition reveal differential kinetic regulation for securin and cyclin </b><b>B1 </b>2018

    • 著者名/発表者名
      Konishi Makoto、Shindo Norihisa、Komiya Masataka、Tanaka Kozo、Itoh Takehiko、Hirota Toru
    • 雑誌名

      Biomedical Research

      巻: 39 ページ: 75~85

    • DOI

      10.2220/biomedres.39.75

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 体細胞における加齢に伴う染色体安定性の変化の実態とその分子基盤の解明2019

    • 著者名/発表者名
      陳冠, 家村顕自, 田中耕三
    • 学会等名
      東北大学大学院医学系研究科 第12回リトリート大学院生研究発表会
  • [学会発表] がん細胞における染色体不安定性は増殖選択圧を受けた際の増殖優位性獲得に寄与する2019

    • 著者名/発表者名
      家村顕自, 田中耕三
    • 学会等名
      第36回染色体ワークショップ・第17回核ダイナミクス研究会
  • [学会発表] 染色体オシレーションによる染色体安定性制御機構2019

    • 著者名/発表者名
      田中耕三
    • 学会等名
      染色体研究の最前線2019
    • 招待講演
  • [学会発表] A novel machinery for maintenance of faithful chromosome segregation2019

    • 著者名/発表者名
      Kenji Iemura, Kozo Tanaka
    • 学会等名
      The kick-off symposium of advanced graduate program for future medicine & health care
    • 国際学会
  • [学会発表] がんにおける染色体不安定性の成因とその影響2019

    • 著者名/発表者名
      田中耕三
    • 学会等名
      平成30年度「感染・免疫・がん・炎症」シンポジウム
    • 招待講演
  • [学会発表] 染色体オシレーション運動は染色体均等分配の堅牢性に寄与する2018

    • 著者名/発表者名
      家村顕自, 田中耕三
    • 学会等名
      第84回日本生化学会東北支部例会
  • [学会発表] ビッグデータ時代のがん細胞生物学2018

    • 著者名/発表者名
      田中耕三
    • 学会等名
      ARLセミナー2018
    • 招待講演
  • [学会発表] 染色体動態を介した染色体均等分配の分子機構の解析2018

    • 著者名/発表者名
      家村顕自, 田中耕三
    • 学会等名
      新学術領域研究「システム癌新次元」平成30年度班会議 若いと思っている人の会
  • [学会発表] 加齢の細胞文脈におけるがんの発生基盤となる染色体構造および動態の解明2018

    • 著者名/発表者名
      田中耕三
    • 学会等名
      新学術領域研究「システム癌新次元」平成30年度班会議
  • [学会発表] 分裂期染色体動態による染色体安定性の維持機構2018

    • 著者名/発表者名
      家村顕自, 田中耕三
    • 学会等名
      第90回日本遺伝学会大会
  • [学会発表] 染色体整列の効率性の低下による高頻度な誤ったキネトコア-微小管結合の形成が染色体安定性を引き起こす2018

    • 著者名/発表者名
      國安絹枝, 家村顕自, 田中耕三
    • 学会等名
      第91回日本生化学会大会
  • [学会発表] The role of chromosomal instability in cancer cell proloferation2018

    • 著者名/発表者名
      Kenji Iemura, Kozo Tanaka
    • 学会等名
      第77回日本癌学会学術総会
  • [学会発表] Role for efficient chromosome alignment in equal chromosome segregation2018

    • 著者名/発表者名
      Kinue Kuniyasu, Kenji Iemura, Kozo Tanaka
    • 学会等名
      第13回生命医科学研究所ネットワーク国際シンポジウム
    • 国際学会
  • [学会発表] Role for efficient chromosome alignment in equal chromosome segregation2018

    • 著者名/発表者名
      國安絹枝, 家村顕自, 田中耕三
    • 学会等名
      第5回加齢研リトリート
  • [学会発表] 中心体キナーゼAurora Aによる染色体振幅運動は染色体均等分配の堅牢性に寄与する2018

    • 著者名/発表者名
      家村顕自, 田中耕三
    • 学会等名
      第41回日本分子生物学会年会
  • [学会発表] 染色体整列の遅延により染色体不安定性が生じる機構2018

    • 著者名/発表者名
      國安絹枝, 家村顕自, 田中耕三
    • 学会等名
      第41回日本分子生物学会年会
  • [学会発表] Defects in efficient chromosome alignment cause chromosomal instability2018

    • 著者名/発表者名
      Kinue Kuniyasu, Kenji Iemura, Kozo Tanaka
    • 学会等名
      ASCB EMBO 2018 meeting
    • 国際学会
  • [備考] 東北大学加齢医学研究所

    • URL

      http://www.idac.tohoku.ac.jp/site_ja/

  • [備考] 東北大学加齢医学研究所分子腫瘍学研究分野

    • URL

      http://www2.idac.tohoku.ac.jp/dep/molonc/index.html

URL: 

公開日: 2019-12-27   更新日: 2021-01-27  

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