公募研究
エストロゲン受容体陽性乳がん細胞、MCF-7細胞を使いBRCA1欠損細胞を作製した。この細胞では、エストロゲン曝露によってできるDNA切断修復に欠損があることを明らかにした。エストロゲン曝露によってできるDNA切断は、トポイソメラーゼ2(Top2)が原因であることを、Top2欠損細胞を作製して証明した。これらのことから、エストロゲンの細胞増殖促進作用に加え、BRCA1欠損によってエストロゲンがDNA毒性を持つことを2018年11月に米国科学アカデミー紀要に発表した。エストロゲン曝露により細胞増殖が促進されるが、Top2によるDNA切断との関係は不明である。本研究目的である、「エストロゲン曝露による転写変動」と「Top2によるDNA切断」との関係を明らかにすることを現在行なっている。エストロゲン曝露による「Top2によるDNA切断」部位を同定する実験手法の最適化を行なった。Top2によって切断されたDNA末端には、Top2が共有結合している。ゲノムDNAを超音波破砕によって断片化したのち、DNAに共有結合したTop2を免疫沈降によって精製する。エストロゲン曝露したBRCA1欠損MCF-7細胞を溶解、超音波破砕したのち、抗Top2抗体によってTop2-DNA複合体の精製を行なった。精製した複合体からTop2をタンパク質分解酵素によって消化後、DNAを次世代シークエンサーで解析したところ、エストロゲンに応答したシグナルが見られなかった。その理由として、細胞抽出液中に大量に存在するDNAに共有結合していないTop2が、Top2-DNA複合体の免疫沈降効率を低下させた理由が考えられる。免疫沈降前に、大量に存在するDNAに共有結合していないTop2を超遠心によって除去することによって、「Top2によるDNA切断」部位を同定する実験手法の最適化を完了させる。
3: やや遅れている
エストロゲン曝露による「Top2によるDNA切断」部位を同定する実験手法の確立を目的に、Top2によって切断されたDNA末端には、Top2が共有結合している。ゲノムDNAを超音波破砕によって断片化したのち、DNAに共有結合したTop2を2回の免疫沈降によって精製することを計画した。2回免疫沈降を行う理由は、精製度を上げるためである。この精製したDNA断片を次世代シークエンサーによって解析したところ、エストロゲンに応答したDNA 切断部位のピークが観察されなかった。その理由は、2つある。一つは、細胞抽出液中に大量に存在するTop2が、Top2と共有結合しているDNA断片の免疫沈降効率を大きく低下させたこと、もう一つは、1度目の免疫沈降時にTop2と共有結合しているDNA断片を溶出する目的に使用したSDSが、2度目の免疫沈降時の抗原抗体反応を阻害した可能性である。我々の使用しているTop2抗体は、溶液中のSDSに感受性であること確認した。そのため、免疫沈降を行う前に、細胞抽出液中に大量に存在するTop2を除去する手法を考えている。
現在までの進捗状況で記載した問題点を解決する目的で、次の実験を計画している。1、細胞抽出液中に大量に存在するTop2を除去するために、細胞抽出液を作ったのち、塩化セシウム溶液を使った超遠心を行う。ペプチド分子は、密度が軽いため塩化セシウム層に入らないが、Top2が共有結合したゲノムDNAは塩化セシウム層を通過し超遠心によって沈殿する。予備実験を行ったところ、この超遠心を行うことで、Top2が共有結合したゲノムDNAだけを精製できることを確認した。Top2が共有結合したゲノムDNAを超音波破砕によって断片化する。断片化したゲノムDNAから抗Top2抗体を使い、Top2-DNA複合体を精製する。Top2-DNA複合体が精製できたかどうかは、次の方法で調べる。免疫沈降物に対しDNA分解酵素処理によってTop2-DNA複合体のDNAを分解する。SDS-PAGEによってTop2のバンドが検出できれば、精製ができたことになる。DNAシークエンス解析は、引き続き共同研究先であるアメリカスローンケタリング癌研究所のScott Keeney博士と共同研究で行う。Keeney博士は、減数分裂期に機能するTop2(Spo11)-DNA複合体の精製に成功した実績があるため、実験手技の最適化に関して適宜議論を行いながら、研究を推進できる。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
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