公募研究
同一腫瘍内における異なったトランスクリプトームをもつサブクローンの混在(腫瘍内不均一性)が、癌根治を妨げる治療耐性化の主因と考える。本研究で我々は、膀胱癌の臨床像・治療軸に沿った腫瘍内不均一性の変化を、シングルセルRNAシークエンスを通じて1細胞レベルで解明し、難治性である膀胱癌多様性の克服する新しい分子基盤を構築する。得られる腫瘍内不均一性の全容は、ライトシート顕微鏡により立体的に可視化し、治療耐性を促すサブクローンが生息するニッチ構造を3次元で明らかにする。実験材料として同種移植に基づくマウス担癌モデル(正所性)を使用し、間質内細胞(免疫細胞等)の多様性や免疫応答に付随する癌微小環境も、1細胞レベルで解析を予定する。2018年度は、マウス膀胱癌組織からの細胞単一化プロトコールの作成・最適化に取り掛かり、シークエンス時にバルク組織からの癌細胞同定を可能にする内因性マーカー発現マウス膀胱癌細胞を作成した。次にライトシート顕微鏡によるトランスクリプトーム情報の再現を視野に入れ、腫瘍塊を1細胞レベルの解像度で①免疫染色、②In situ hybridization、③免疫染色及びIn situ hybridizationで可視化する新規癌イメージング法を確立した。腫瘍塊がスライドフリーで透明化・可視化できる本プロトコール作成は、シングルセルRNAシークエンスの結果を立体的な腫瘍組織で再現する重要な研究基盤と考える。また血中循環腫瘍細胞がシングルセルRNAシークエンスに利用できれば、既に細胞が単一化されている点で興味深い。2018年度は転移性泌尿器がん(尿路上皮癌・腎癌)から得られる血中循環腫瘍細胞をシングルセルRNAシークエンスへ利用を前向き研究として倫理委員会で承認を得た。
3: やや遅れている
円滑なシングルセルRNAシークエンスには、①固形組織(癌)からの細胞単一化、②得られた細胞集団からの標的細胞単離が重要である。細胞単一化は酵素処理(トリプシン・コラゲナーゼ)を伴うため、Cell viability 維持がプロトコールに求められ、標的細胞の単離にはマーカーが必要となる。2018年度はまず、マウス膀胱癌組織からの細胞単一化プロトコールの作成・最適化に加えて、バルク組織からの癌細胞同定を可能にするGFP発現マウス膀胱癌細胞の作製を行った(マウス膀胱癌組織からの細胞単一化は現在もプロトコール最適化の最中である)。得られたトランスクリプトーム情報を腫瘍組織へ 3次元投射するライトシート顕微鏡の使用に関しては、我々は世界に先駆けて「腫瘍塊を1細胞レベルの解像度で①免疫染色、②In situ hybridization、③免疫染色及びIn situ hybridizationで可視化する」新規癌イメージング確立に成功した。透明化された腫瘍では、そのまま組織深部まで 1 細胞毎に可視化されるため、シングルセルRNAシークエンスで得られる表現型の再現が可能と考える。またシングルセルRNAシークエンス研究で血中循環腫瘍細胞を利用することは、既に細胞が単一化されている点で、研究に優位性があると考える。2018年度は転移性泌尿器がん(尿路上皮癌・腎癌)から得られる血中循環腫瘍細胞をシングルセルRNAシークエンスへ利用する前向き研究として、倫理委員会で研究承認を得た(承認番号:20180099 課題名: 腎細胞癌患者を対象とした血中バイオマーカーの検討、承認番号:20180354課題名: 尿路上皮癌患者を対象とした血中バイオマーカーの検討)。
同種移植に基づくマウス担癌モデルは、癌細胞のみならず、間質内細胞(免疫細胞等)の多様性や付随する癌微小環境も1細胞レベルで可視化できる。そのため宿主由来の間質内細胞(免疫細胞等)の多様性や免疫応答も網羅され、実際のヒト膀胱癌と一致した実験系が構築される。この試みにおいて、2018年度はIn vivoへのシングルセルRNAシークエンス適用に備え、マウス膀胱癌組織からの細胞単一化プロトコールの作成に着手し、現在は最適化に従事している。Cell viability を維持した細胞単一化は本研究手法の鍵を握る。我々は既にGFP発現マウス膀胱癌細胞の作製は終了しており、バルク組織からの癌細胞同定を可能にするマーカーとしてシングルセルRNAシークエンスに使用する予定である。我々のもう一つの独自性であるライトシート顕微鏡は、2018年度の成果で、固形癌を1細胞レベルの解像度を維持した状態で、①免疫染色、②In situ hybridization、③免疫染色及びIn situ hybridizationが何れもスライドフリーで可視化できる透明化プロトコール作成に成功した。即ちシングルセルRNAシークエンスの結果が立体的な腫瘍組織で再現するための研究基盤が整ったと考える。次年度はまず、マウス膀胱癌組織から確実性・再現性を有する細胞単一化プロトコールを早急に確立し、In vivoシングルセルRNAシークエンスを実装に移したいと考える。得られる結果は順次ライトシート顕微鏡でタンパク・RNAレベルで可視化を予定する。また血中循環腫瘍細胞は既に単一細胞化されている点で、シングルセルRNAシークエンスの実装がより現実的である。そのため倫理委員会で既に承認を受けている転移性泌尿器がん(尿路上皮癌・腎癌)から得られる血中循環腫瘍細胞も前向き研究として、シングルセルRNAシークエンスへの利用を予定する。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)
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