前年度までの研究で明らかにした、ビーム型内部重力波の共鳴不安定によって生じる擾乱のエネルギーは、さらに二次的な不安定を経て乱流混合を引き起こすと考えられる。内部波から乱流に至るエネルギーカスケードの過程を詳細に再現するため、リヨン高等師範学校(フランス)との共同研究として新しい数値モデルを開発した。領域変形スペクトルモデルと名付けられたこのモデルでは、大規模な流れによって移流される微小な平行六面体要素を取り出し、その中で励起される乱流の時間発展をシミュレートする。大スケールの波動や渦の時間発展を陽に計算せずに済むためモデル領域が節約でき、微細な乱流成分の解析に計算資源を集中させられるという特徴がある。初期条件としてホワイトノイズの流速場を設定して、内部波の共鳴不安定によって発生した乱流エネルギーが概ね飽和するまで時間積分した。計算の実施には、東京大学情報基盤センターの大型計算機システム(Oakforest-PACS)を利用した。 計算の結果、擾乱の振幅が閾値に達するとシア不安定と対流不安定がほぼ同時に発生して、流れの構造が無秩序な乱流状態へと急速に遷移する様子が再現された。運動エネルギー散逸率と背景位置エネルギー上昇率の比を表す混合係数は、すべての実験において0.5を上回っていた。深海の混合係数の典型値が0.2程度とされていることを踏まえると、これは非常に大きな値である。背景内部波の持つ有効位置エネルギーが乱流成分の有効位置エネルギーへ直接変換されて散逸することが、高効率での混合を引き起こす要因ではないかと考えられる。 一連の成果をまとめた論文は、国際誌(Geophysical Research Letters、Journal of Fluid Mechanics)で発表した。
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