研究領域 | 海洋混合学の創設:物質循環・気候・生態系の維持と長周期変動の解明 |
研究課題/領域番号 |
18H04920
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
小針 統 鹿児島大学, 農水産獣医学域水産学系, 准教授 (60336328)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 植物プランクトン / 微小動物プランクトン / 食物網 / 乱流 / 硝酸塩フラックス |
研究実績の概要 |
本研究では、黒潮流域で強化される乱流が低次食物網に与える影響を評価することを目的とし、①黒潮流域の乱流に伴う硝酸塩フラックス規模の解明、②乱流に伴う硝酸塩フラックスが低次食物網構造に与える影響の評価、③硝酸塩添加に伴う低次食物網構造および速度過程の変化に関する実験的検証、という3課題を設定した。今年度は、以下のような成果を得た。 課題①:乱流および硝酸塩の観測によると、亜表層クロロフィル極大直下にやや強い乱流と強い硝酸塩濃度勾配が存在し、黒潮フロントで観測されたものよりも高い硝酸塩フラックスが認められた。これは、トカラ海域の亜表層では乱流混合による硝酸塩供給が定常的に発生していることを意味する。 課題②:トカラ海峡の上流域よりも下流域では亜表層の栄養塩濃度が高く、中型~大型植物プランクトン、中型~大型メソ動物プランクトンが増加した。 課題③:培養実験によると、栄養塩添加量が増加するのに伴って植物プランクトンおよび微小動物プランクトンの成長速度も増加した。トカラ海域で実測される栄養塩供給でも、植物プランクトン・微小動物プランクトンは十分に増えることが分かった。また、増えた植物プランクトンは速やかに微小動物プランクトンに消費されることが明らかとなった。 これらの結果は、①想定以上に黒潮流域の低次生産力が高い可能性があること、②低次食物網内の速やかな栄養動態は仔稚魚に好適な餌料環境を提供している可能性があること、を示唆している。これらの研究成果を含む論文を作成し、国内誌、国際誌に投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理由①:悪天候・悪海況により十分なデータが得られないことも想定していたため、当該年度だけでなく研究期間前にもこれら課題に必要な海洋観測・洋上実験を行ってきた。結果として、研究計画以上の海洋観測・培養実験を実施することができ、課題実施に十分な観測データ・実験データが蓄積された。 理由②:各課題における核心部の研究成果(トカラ海峡の硝酸塩フラックス、栄養塩添加に伴う植物・微小動物プランクトンの増加、トカラ海峡下流域における動物プランクトンの増加)を、いずれの課題においても得ることができた。 理由③:短期間の研究期間(2年)にもかかわらず、初年度において各課題に関する研究成果を国内・国際学会において5件発表しただけでなく、学術誌に2件投稿することができた。 その他:一部の生物標本に想定より多くの生物が入っていたため処理に時間を要し、平成30年度内に外注解析依頼できなかった。これに伴い、課題②に関する一部のデータが得られなかったが、課題達成には影響がない。 以上のことから、一部に遅れがあるものの大きな影響はなく、研究計画通りに進展したと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
観測・実験:これまでの海洋観測・洋上実験は研究計画以上に実施でき、課題①~③の達成に必要な観測データ・実験データは十分蓄積された。次年度にも海洋観測・洋上実験が計画されているが、これまでの研究成果や仮説に関する検証データを得るものとして実施する。 研究成果:代表者・協力者の解析結果・情報を集約し、課題①~③の明確な研究成果をまとめる。これらの研究成果は、国内・国際学会で積極的に発表する。また、現在投稿中の論文は、いずれかの学術誌において発表する。 アウトリーチ:本研究では、黒潮に対する海洋観のパラダイムシフト(黒潮は豊穣の海)を提唱している。研究成果を一部紹介しながら海の恵みを体感するような一般市民向けのアウトリーチ活動(体験ラボ・出前授業など)を計画する。
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