公募研究
本研究は日本周辺海域を回遊する魚種を対象に,耳石の安定同位体組成に記録される水温などの環境情報を高解像度で解析することを目的としている.日輪レベルまでの高時間分解能での回遊履歴を抽出することにより,産卵時期・規模,回遊中に魚類が経験した水塊情報の推定,そして当該魚種の集団構造を明らかにすることへの貢献を目指す.全ての研究は研究計画班A03-6班および米田公募班と連携をとりながら進め,相互の研究特性を活かしながら適切な研究対象を選定して,モデル解析に対しての高解像度の実証データとして提供することを目指した研究を進めている.最終的には,海洋混合学の新展開に資する水産分野研究の発展に寄与することを目的としている.本年度は海洋環境変化に対する水産資源の応答様式の解明にむけて,魚類耳石の安定同位体比分析を用いて(1)小型魚類の仔稚魚期の生態解析技術の高度化と,(2)高解像度回遊履歴復元に向けた応用研究の加速を目指して 3つのテーマを設定した.結果,耳石安定同位体解析に関して想定以上の進展を得ることができた.今後は気候変動に対する漁獲量変動を明らかにするうえで,既に起きた環境変動と漁獲量変動の相関を解明するために,過去に遡った耳石の詳細な分析も必要になる.耳石試料をアーカイブしている国内の研究機関との共同研究を進め,長期変動に対する漁獲量変動との関係解明を進めていく必要がある.一方で,我々の高解像度安定同位体解析に関しては,手法の効率化と汎用化の必要性も望まれる.
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は我々の分析技術を魚類耳石研究へと応用展開するにあたり,その展開加速ステージと位置づけていたが,技術面・応用面ともに想定以上の成果を得ることができた.(1)これまで耳石酸素安定同位体比(δ18O)と水温との関係が未解明であったマサバにおいて,米田公募班とA3-6班との連携の元,世界初となるマサバ固有の温度換式を確立した.(2)マサバの資源量変動と環境要因との関係を理解するため,北西太平洋混合域で得られた初期成長率の良い個体と悪い個体の経験水温の比較を行い,孵化日の違いに起因する可能性を見出した.また,資源量の多かった2013 年に採取されたマサバ稚魚は採取地点が異なっても一様に冷水温を経験していることが分かった.一方で,2013 年群の中でも異なる水温履歴を持つグループが存在し,回遊経路が 複数あることを示した.(3)生息場で鉛直移動をおこなうマアジを研究対象に,対馬の東西2地点で得られたマアジ個体の高解像度同位体履歴の抽出を試行した.技術面では一日単位の経験水温復元に世界で初めて成功すると同時に,精密切削・分析技術の高度化につながった.さらに改善可能な点,改善困難な点に関する知見を得たことから,今後の応用展開に対して我々の分析技術の適応範囲を明示することが可能になった.また,対馬東西の漁獲群で平均経験水温は異なるが,共に5~6月には経験水温が約5℃上昇し,6~7月には2~4℃下降する共通性を確認した.このことから,東西の漁獲群共に6~7月に深い水深へ生息場所を移行した可能性が示唆された.さらに対馬東西における耳石の成長率の違いは,高成長期間の経験水温の影響を受けている可能性が示唆された.今後は切削の精密性向上,日周輪の正確な認識,マアジ水温換算式の構築,分析個体数の追加により,詳細な鉛直移動過程や回遊経路の推定,そして環境変動と資源量変動の要因解明へと結びつく.
これまで推進してきたマサバ・マアジ耳石の解析を継続しつつ,微小領域掘削技術と微小領域安定同位体比分析技術を活用し,微小な耳石から回遊水温履歴を抽出する方法(魚種ごとの最適な微小領域の切削・分析方法)を確立する.また昨年度大きな進展があった耳石同位体水温換算式について,新たな魚種の耳石同位体水温換算式の構築と既存知見の高度化を計画班・公募班と連携して推進する. マサバ・マアジについては,年度や産地毎の資源量変動と耳石水温履歴との間に関係性があるかどうか検証しつつ,最終的に,日本周辺海域における魚類回遊モデルおよび大気海洋モデルと組み合わせることで,新たな資源変動解析法として当該研究への寄与を目指す.
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (20件) (うち国際学会 11件)
PLoS ONE
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