小型浮魚の分布・回遊の解明に資する生息環境履歴データバンクの開発を目的として、マサバ、マイワシ、カタクチイワシを対象に、仔魚~幼魚の飼育を行い、得られた耳石の酸素同位体比(δ18 O)と炭素同位体比(δ13C)の経時変化、耳石径や水温・餌料条件との関係を調べた。マサバ稚魚~幼魚について、複数の水温区から得られた標本を用いて耳石δ18 Oの水温換算式を構築した。さらに得られた換算式に基づいて、マサバ天然魚の水温履歴を推定した結果、成長が進むにつれて餌料環境の良好な低水温域(親潮)へ移動していることが示された。一方、カタクチイワシ稚魚~幼魚における耳石δ18 Oと水温の関係は、マサバやマイワシとは異なることが判明し、耳石δ18 Oの水温依存性には種間変異があることが示された。小型浮魚3種において、仔魚~稚魚の耳石δ18 Oの水温依存性は、発育段階の影響を強く受けることが明らかになり、同じ水温でも、耳石δ18 Oは仔魚~変態期では減少、変態期~稚魚では増加することが示された。マサバおよびカタクチイワシでは、発育初期の耳石δ18 Oと耳石径の関係式の傾きは、異なる水温でも類似していることから、さらにデータを追加することにより、それら種の水温換算式の構築が可能であると考えられた。一方、マイワシの発育初期の耳石δ18 Oと耳石径の関係式は水温によって異なっており、魚種間による違いが明らかになった。耳石δ13Cについて、小型浮魚3種ともに、水温や餌料条件に比べて、個体の発育段階により大きな影響を受けることが示された。以上、小型浮魚3種における耳石の安定同位体比を利用した生息環境履歴データバンクに関する研究を推し進め、特にマサバについては、天然魚の水温履歴の推定が可能となり、本種の分布・回遊推定の精度向上に寄与することが期待される。
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