研究領域 | 非線形発振現象を基盤としたヒューマンネイチャーの理解 |
研究課題/領域番号 |
18H04927
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
榎木 亮介 北海道大学, 電子科学研究所, 准教授 (00528341)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ウルトラディアンリズム / 生物時計 / 概日リズム / 室傍核 / 傍室傍核領域 / 神経ネットワーク / イメージング / カルシウム |
研究実績の概要 |
哺乳類の約24時間の概日リズムの中枢は,脳深部の視床下部にある視交叉上核に存在し,網膜を介して光情報を受けて固有の周期を24時間に調節し,全身の細胞や臓器に統一のとれたリズム情報を伝達している。近年の研究により,概日リズムを生み出す分子や細胞レベルでのメカニズムが次第に明らかとなってきた。一方で,哺乳類の生体内では,レム-ノンレム睡眠サイクルやホルモン分泌など,様々な生理機能に数十分~数時間の短い周期のウルトラディアンリズムが観察されることが知られている。しかし,これまでウルトラディアンリズムを長期的・高精細に計測するよい方法がなく,ウルトラディアンリズムを生成する脳の領域がどこにあるのかは長く不明であった。 本研究では,視交叉上核とその周辺領域を含む組織を長期間培養し,緑色蛍光タンパク質からなる遺伝子コード型カルシウムセンサーをアデノ随伴ウイルスの感染発現により多数の神経細胞に発現させ,概日リズム中枢を含む複数の脳領域の神経細胞から,細胞内カルシウム濃度変化を指標に神経細胞の活動を数日間測定することを試みた。その結果,視交叉上核の主な神経投射先である室傍核と傍室傍核領域の多数の神経細胞において,30分~4時間周期で同期する新規の細胞内カルシウムのウルトラディアンリズムを見いだした。室傍核と傍室傍核領域には,様々なホルモンを産生する神経細胞が存在していることが知られており,さらにこの脳部位は他の脳領域へと投射して体温や睡眠サイクルを調節する中枢領域へと情報を伝えていると推察されていることから,本研究で見いだしたウルトラディアンリズムは生体の様々な生理機能のリズムを制御している可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでに,室傍核と傍室傍核領域の多数の神経細胞において,30分~4時間周期で同期する新規の細胞内カルシウムのウルトラディアンリズムを見いだした。このリズムは室傍核と傍室傍核領域のみを単離した組織でも観察されることから,この部位がウルトラディアンリズムの発生源であることがわかった。さらに,神経細胞ネットワークのミリ秒スケールの早い神経細胞の同期活動がウルトラディアンリズムを生み出すことや,興奮性と抑制性の神経伝達物質のバランスによりウルトラディアンリズムが制御されていることもわかった。本研究成果は中国復旦大学との共同研究として進め、PNAS誌に報告した。
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今後の研究の推進方策 |
細胞内カルシウムの他、様々な機能プローブを発現させるためのアデノ随伴ウイルスを作成し、培養スライスでの発現の確認を行っており、今後は多機能の可視化解析によりリズム発生の詳細なメカニズムを解明する。さらに現在は成獣の生体内での存在と機能を検証をすべく研究を進めており、そのために必要なマウス行動測定装置を設置し、マウス頭部に装着できる小型顕微鏡の構築と動作確認を行っている。また脳深部への局所ウイルス感染によるカルシウムセンサーを発現させることを試みている。
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