研究実績の概要は次の通りである。池田班から提供された広域周波数帯域ECoG記録脳波10患者データについて、パワースペクトル解析の結果を見直した。パワースペクトルに現れるベキ型の分布は非整数ブラウン運動に従うことを予想させるため、差分時系列の従う確率分布を評価した。差分時系列は正規分布に近い確率分布に従い、その分散が時間幅のH乗に比例していることがわかった。これは原波形が非整数ブラウン運動に従うことを示唆する結果である。次に、昨年度発見した発作時高周波振動におけるサークルマップ型の力学系が存在する原波形の判断基準を提案した。該当する高周波振動は特定の周波数、特に100Hzから150Hzに生起している。この周波数はサークルマップ型の力学系の特徴量として定義できる回転数に対応するものであり、時間周波数解析の結果からサークルマップ型の力学系の発生する時間区間を特定できる可能性がある。てんかん由来の高周波振動とそうでない高周波振動の区別を取り入れた判定基準を定めることが次の問題である。 また、差分時系列に対するシンボリックトランスファーエントロピーおよびパーミュテーションエントロピーに関して協力研究者の田所とともにPt1の各ch間で評価した。トランスファーエントロピーは 2つの時系列間に存在する情報の流れを定量化するものだが、必要な計算資源が膨大になる。これを単純化してシンボルによる情報の流れを与えるものがシンボリックトランスファーエントロピーであり、パーミュテーションエントロピーも同様である。差分時系列に対するシンボリックトランスファーエントロピーおよびパーミュテーションエントロピーは比較的一様であり、高周波振動の生じる時間区間で大きく変動することが判明した。
|