研究領域 | 非線形発振現象を基盤としたヒューマンネイチャーの理解 |
研究課題/領域番号 |
18H04935
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
本吉 勇 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (60447034)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 振動 / 共振 / 知覚 |
研究実績の概要 |
複数の特徴次元を注意により統合することが要求される視覚課題の成績が,試行開始のボタン押しアクションからの刺激提示の時刻の関数として,正弦波状に振動する現象を発見した.さらにこの課題を遂行中の脳波を解析したところ,アクションを起点としてシータ帯域の共振成分の位相が同期すること,および刺激提示直前におけるこの共振成分の位相が,行動的に観察される課題成績の振動と相関することを見出した.これらの結果により,注意に基づく視覚情報の統合が,4-8 Hzのリズムで周期的に動作する神経回路における情報処理に基づく可能性が示唆された.この知見は原著論文として公刊された.また,以前より進めていた,連続運動する視覚刺激がシータ帯域で離散的に跳躍して知覚される新錯覚に関する解析結果も原著論文として公刊された. 加えて,任意の視覚刺激に対する判断において利用される情報のダイナミクスを解析するための新たな心理物理学的手法を駆使して,過去および未来の視覚情報に対する知覚的意思決定機構における振動現象を探索した.その探索から派生した知見として,視覚刺激の時間長に関する判断を扱ったところ,現試行における判断は過去の判断に対して同化し,過去の刺激に対しては対比することがわかった.これらの結果は,知覚系には過去の意思決定との一貫性を保持しようとするベイズ的な更正機構と,過去の知覚表象との差異を強調しようとする反ベイズ的な更正機構が存在することを示唆していると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画において予定されていた主要な研究の一つである「注意に基づく知覚情報統合の周期性とその神経基盤」はほぼ完了した.また,これらの研究に触発された新たなトピックの研究として意思決定機構のダイナミクス(周期性を含む)に関する検討を開始した.明確な振動現象を発見するには至っていないが,上記のように重要な派生的発見が得られた.
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今後の研究の推進方策 |
今年度において明らかにした,注意とそれに基づく視覚の情報統合の処理の周期性を基盤として,色や位置の意識的知覚,知覚的意思決定において周期性を示す現象を探索するとともに,それらと相関する神経活動の共振を脳波解析により同定し,注意や意思決定の機構における周期的処理を明らかにする.また,今年度において見出した「アクションによる神経共振の同期」に関して,その詳細な機序と機能的な意味を明らかにするための実験的検討を行う.
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