統合失調症モデルや遺伝薬理学的手法等を駆使し、ドパミン神経活動の皮質γオシレーションへの影響に関する以下の実験を実施した。脳波ECoGは前頭葉、体性感覚野、聴覚野、視覚野の4部位で測定し、脳波スペクトラムや事象関連電位と位相相関を中心に解析した。 1.薬理遺伝学手法を用いたドパミン発火調節と皮質γオシレーションへの影響の計測:チロシン水酸化酵素の遺伝子プロモーター下にCREリコンビナーゼを発現するドライバーラットを用いて、その中脳ドパミン神経にアデノ随伴ウイルスベクターに入ったDREADD遺伝子を細胞特異的に発現させた。ドパミン神経発火をこの操作により、急性に2倍近く増加させた。その結果、バックグラウンドのβ帯脳波が全ての部位で低下、逆にγ帯脳波が全ての脳部位で増加した。対照的に音刺激での事象関連電位では聴覚野のみでγ帯脳波が増加した。 2.γオシレーションによる視覚:聴覚情報の連合変化と前頭葉への伝播性変化の分析:音刺激パラダイムにおいては、バックグラウンドのβ帯以下の脳波位相連合性が、全ての部位間で大きく上昇していたが、γ帯脳波連合性は聴覚野:前頭葉間のみで亢進していた。音反応性の事象関連電位の脳波位相連合性は、β帯以下で低下に転じている。総合すると、ドパミン神経活動の慢性的上昇は、ボトムアップ型での音神経情報の皮質間情報処理を低下させ、逆に前頭葉を代表とするトップダウン型の皮質間情報統合処理を優先させていると推察された。
|