研究実績の概要 |
脳の領域間の機能的結合強度は常に一定ではなく、睡眠覚醒リズムに応じて変化する。これを実現する仕組みは何か?視床網様核(TRN)は、視床から大脳皮質へ伝える情報を選別する「門番」と言われる。また、TRN 神経の発火様式は睡眠と覚醒の状態で全く異なる。よって、状態依存的な脳領域間の機能的結合強度の変化を、TRN 活動が担う可能性がある。これを実証するために、TRN活動と全脳活動との同時計測を実現し、睡眠と覚醒の状態を特定した上でそれらの関係性を検証することを本研究の目的とした。独自に開発した「光ファイバー蛍光測定法」(J Neurosci 37:2723-2733, 2017)と「覚醒マウスを用いた機能的MRI(fMRI)撮像法」(J Neurosci Methods 274:38-48, 2016)とを融合し、この技術を、TRN特異的に蛍光Ca2+センサータンパク質を発現させた遺伝子改変マウスに適用することで、TRN活動(Ca2+)と全脳活動(fMRI信号)との同時計測に申請者らは初めて成功した。この結果、TRN が新規の低周波数発振活動を示すことや(2018年第41回日本神経科学会ポスター発表)、TRN発振と同期活動する脳部位群を見つけた(2019年Neuro2019にてシンポジウムを企画し、講演発表済み)。またTRNの集合活動(Ca2+)は予想外なことに睡眠下でも覚醒中と同様な振動活動を示すことを見出した。ただしMRI撮像中は撮像騒音や頭蓋固定下であるなどのために、標準的な睡眠覚醒判定法をそのまま適用するのは困難であった。そこでMRI撮像環境下でも安定して睡眠覚醒状態を判定できる方法を開発中である。この間に、TRNの総説論文(Takata 2020 Neurosci. Res.)とマウス全脳の柔軟な脳地図を提案した(Takata et al. 2020 BioRxiv)。
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